読者をさまざまな世界へと誘う小説は、どの季節に読んでもよいものです。今回は、夏という季節や旅行というイベントにより色を添えてくれる10作品をご紹介いたします。
この文章が、みなさまと物語との出会いのきっかけになることを願っております。
■『時をかける少女』筒井康隆・著
2006年に発表された細田守氏の作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。映画の原作ともいえるこちらでは、アニメーション映画でも登場する「魔女おばさん」こと芳山和子が主人公となって展開されていきます。
放課後の誰もいない理科室、ガラスの割れる音、そして壊れた試験管からただよう甘い香り。時間を巡る物語を抱えて出発し、旅行という「今」へと思いを馳せるのもよいのではないでしょうか。
■『夏月の海に囁く呪文』雨宮諒・著
2005年の11月といいますから冬に初版が発行されていますが、まごうことなき夏の話です。夢久島(むくじま)というのどかな場所を舞台として、水本修一という高校生の視点を中心に描かれていきます。
その島には、天尽岩という巨大な岩があります。そこである呪文をとなえると、本当の自分の居場所に連れていってくれるといいます。そんなことが本当にありうるのか、そしてその呪文とはなにか、みなさんの目で確かめてみてください。
■『ブランコのむこうで』星新一・著
学校の帰り道、語り部である「ぼく」は「もうひとりのぼく」に出会います。「もうひとりのぼく」をつけていった「ぼく」は、とある不幸な出来事に遭遇してしまいます。その不幸な出来事とは……。
主人公である「ぼく」はさまざまな場所を訪れ、さまざまな人と関わっていきます。ショートショートの名手として名高い作者の「長編ファンタジー」と旅をすることで、現実の旅でも新たな発見があるかもしれませんね。
■『つきのふね』森絵都・著
中学生のさくらと梨利、ちょっと不思議な男の子の勝田くん、ある乗物の設計を仕事とする悟さんの四人を中心に展開される物語です。読んでいて楽しいエピソードばかりではないですが、素晴らしい読後感を生んでくれることに疑いの余地はありません。
船は、海や空を渡るためのものです。それでは「つきのふね」とはなんでしょうか。空を移動するためのものでしょうか、それとも宇宙を巡るためのものでしょうか。その答えはぜひみなさんが掴んでみてください。
■『また、同じ夢を見ていた』住野よる・著
『君の膵臓をたべたい』でブームを巻き起こした住野よる氏による作品です。早熟な小学生の女の子、小柳奈ノ花を中心として紡がれていきます。かわいらしさだけじゃない、爽快なだけじゃない、けれどもやさしさに満ち溢れた物語です。
たとえば行楽地巡りや温泉疲れで、ふと息をつきたくなる瞬間もあるでしょう。そんなときに、静かな場所で紐解いてみるのもまた一興ではないでしょうか。老若男女問わずおすすめしたい作品です。
■『空色ヒッチハイカー』橋本紡・著
作中の言葉を借りるならば、『空色ヒッチハイカー』は「ひとりの男の子と、ひとりの女の子が、ただ車に乗って走り続けるだけの物語だ。」ということになります。1959年製のキャデラックに乗って進む、ふたりの物語です。
人生を旅に例える言葉や文章はあちらこちらで目にします。そして、実際にそういう一面もあるのでしょう。旅行と旅はまた少し違うかもしれませんが、共通項だってあるはずです。等身大の嘘偽りない物語が好きな方は、好きになる作品ではないでしょうか。
■『オコノギくんは人魚ですので』柴村仁・著
夏といえば海、海といえば人魚ではないでしょうか。完全に主観なので話半分に聞いていただければと思います。舞台となる城兼高校には、ときどき「人魚」が生徒として転入してきます。オコノギくんもそんな一人で、主人公のナツは彼に興味をもちます。
雨で濁った海のようなミステリアスさ、透明な水のようなやわらかさが同居するのが本作の魅力です。読みやすさもあるため、爽やかな読後感を望む読者の方には自信をもっておすすめできる作品です。
■『星の王子さま』サンテグジュペリ・著
いわずと知れたフランス文学の傑作を、あえてこちらでご紹介することには理由があります。それはこの物語が、星の王子さまの旅程を描いた作品であり、また著者であるサンテグジュペリが飛行士であったからです。
空を飛んで、つまりは飛行機に乗って旅行に出かけることもあるでしょう。シートベルトを締めて離陸の感覚に少しだけ、あるいはおおいに緊張しながら飛びたち、そして上空で読む本作は、地上で読むのとは別の感覚を与えてくれるかもしれません。
■『思い出のマーニー』ジョーン・G・ロビンソン
イギリス児童文学の傑作と説明されることがあります。紛うことなき傑作だとこちらでも断言しましょう。スタジオジブリによって映画化されたため、そちらでご存知の方も多いことでしょう。
自らを「外側」にいる嫌な子どもと考えているアンナと、不思議な館に住む金髪の女の子マーニー。ふたりの物語が綴られる前半と、その秘密が明かされる後半に分けることができます。映画をご覧になった方も、ぜひ原作に触れていただきたい作品です。
■『TUGUMI』吉本ばなな・著
第2回山本周五郎賞を受賞された1992年の作品です。病弱で生意気な美少女つぐみと、語り部であるまりあたちを中心に綴られていく物語は、苦しさや悲しさ、喜びや葛藤、さまざまな感情を読者の心に与えていきます。
つぐみというキャラクターの強さだけではない魅力が多分に含まれている、栄養分が豊富な海のような物語です。潮風の香りを感じたい方、前を向けるような読後感を求めている方はぜひどうぞ。
国内外、新旧問わずにさまざまなものをご紹介したいと考えながら筆をとっておりましたが、いかがでしょうか。これらの物語を愛する者として、少しでも興味をもっていただけたのであれば幸いです。
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著者名:凪乃ひすい(なぎのひすい)
WEBライター。介護や転職、生活の知恵などさまざまなテーマにてライティングを行っている。