このエッセイには銅版画のことしか書いていません。「銅版画ってなに?」という方は#1をお読みいただけたら、すこし興味を持っていただけるかもしれないです。前回から引き続きお読みくださっている方、ありがとうございます。 憂鬱そうな羽が生えた人、コンパス、天使、砂時計、球体、多面体、虹、コウモリ?、天秤、釘、鉋、鋸、鍵、草冠、梯子、痩せた犬、魔法陣、モノグラム。文字の並びだけでも漆黒の翼の右腕が疼きそうなアイテムが大集合の、アルブレヒト・デューラー による銅版画「メランコリア I」です。デューラーは1471年にドイツのニュルンベルクという町で生まれたルネサンス期の画家。 デューラーの作品と比べると、なんの捻りもなくてアホみたいです。 クラウドファンティングを立ち上げたい方はコチラから
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有名な銅版画について書こうと思っていたのですが、いざ書こうとすると、研究者ではないので検索すれば分かることしか書けないし、制作現場を実際に見てきたわけでもないし、そもそも誰が私の語りに興味あるんだ、みたいなことを考え込んでしまいどうしたら良いか分からなくなってしまいました。
なので、中学生の時にZipperの連載で出会い人生の方向が変わった私の敬慕する嶽本野ばら先生の最高にかわいくておもしろいのに勉強になる新著「お姫様と名建築」に便乗し、「陰キャと名銅版画」をタイトルに書かせていただこうと思います。
いん‐キャ【陰キャ】 ー《「陰気なキャラクター」の意》引っ込み思案で内気な人。陰キャラ。⇔陽(よう)キャ。 (goo国語辞書)
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デューラー、レンブラント、ゴヤ、ルドン、グリンガー、ピラネージなど、歴史に残る銅版画作品を作った画家たちがいます。他の版画技法や油絵でも絵を描いていたり建築家(自称)だったりしますが、銅版画を単なる印刷技術としてではなく、あえて選んで制作したのではないかと思えるような作品が残っています。
「銅版画」と画像検索すると、とにかく黒くて暗いです。タイトルはメランコリーだとか牢獄だとか悪魔だとか怪物だとか…怒られそうですが、簡単に言ってしまうと中二病的響きが満載です。黒い銅版画にはそんな暗い題材がしっくりきます。
メランコリア I
アルブレヒト・デューラー
様々な文献で、当時の思想やモチーフの持つ意味からこの絵の謎を解き明かし解説されています。つまり、美術館で15秒くらい見たところで、絵がものすごくうまい!となんか憂鬱について描いてるらしい、ということくらいしか分からないです。(でも実物はネットの画像や印刷物とは迫力が全く違うので、15秒でも観たほうが良いと思います。)現代では美術館にある作品ですが、もしかしたら、当時の人達にとっては漫画やエヴァやゲームの様にゆっくり考察して楽しむものだったのかもしれません。錬金術、幾何学、数秘術など部屋に篭って考え続ける人たちの得意分野が、小さな一枚の銅版画に詰まっています。
メトロポリタン美術館のサイトの解説には、「a spiritual self-portrait of Dürer (デューラーの精神的な自画像)」とあります。もしこの絵を自ら自画像だと言っているのなら、デューラーはインドア派でスポーツとか出来なそうだし、隠気でプライドが高そうです。隠キャです。会ったことないので想像でしかないのですが…。銅版画家は一人で机に向かい、前屈みでひたすら細かい作業をします。猫背になるし、一人が好きな根暗じゃないとやってられません。2020年の緊急事態宣言で、飲みに行けない友達に会えないストレス!と世の中がなっていた時、あれ、自分の日常あんまり変わらなくね?と思ったようなメランコリー隠キャに、きっと銅版画は向いています。
それにしても、500年くらい前に描かれた絵がまだ綺麗に残っていて、はるばる日本まで運ばれてきて美術館で観られるなんて、すごい事だと思います。人間は暇すぎて忙しいのか、猫みたいに生きていたら永遠に無理そうです。
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最後に、前回(#2)で作り方を紹介したさくらちゃんの完成版をご紹介します。インクで刷って乾かした後、水で溶ける色鉛筆を使って色をつけています。
写真:宮下夏子
サイズ/25×25cm
制作年/2021
〈注釈〉
漆黒の翼 ー「斉木楠雄のΨ難」のキャラクター、海藤瞬(中二病)の別名。右腕に”ブラックビート”を宿す。
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武蔵野美術大学大学院版画コース修了。
ヴィルニュス芸術アカデミー(リトアニア)でグラフィックアートを1年間学ぶ。
銅版画を中心に、生物をモチーフにした制作を行う。この記事に関連するコンテンツ
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