役に立たない銅版画#7- 古屋郁 -

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このエッセイには銅版画のことしか書いていません。「銅版画ってなに?」という方は#1をお読みいただけたら、すこし親近感が湧いてくるかもしれないです。今回は版画作品の下の方に書いてある数字について。ギャラリーで版画作品を観るときだけに役立つ知識です!

現代の版画家の作品には、作品自身に記しておくべき約束事がいくつかあります。まずは作品の左下の方に書いてある分数(①)。これはエディションと呼ばれます。分母は「同じ版から刷られた同じ図柄の作品が世の中に何個存在するか」を表しています。分子は「その作品が何番目か」を表しています。例えば3/10と書いてあったら、10枚同じ絵が存在する中の3番目の作品、という事になります。上限があるファンクラブの会員番号みたいなものです。1/1だったら、版画作品だけど1点ものです。 (a.p.やp.p.などと書かれている場合もあります。細かい定義はありますが、元々売り物じゃなかったんだな、くらいの認識で良いと思います。 )

私の銅版画作品はエディションを7枚に統一しています。「なんで7なの?」とよく聞かれますが、7という数字は単純にラッキーセブンだし、曜日、北斗七星など 7個で1組のイメージもあります。そしてエディション7にしている最大の理由は、見た目が良いからです。

1/7, 2/7, 3/7, 4/7, 5/7, 6/7, 7/7

7/7以外は約分出来ない。美しい!
8/40とか絵の下に書いてあったら、1/5に書き換えたくてうずうずしそうです。

エディションの右隣、中央下(②)に書いてあるのは作品のタイトルです。タイトルはセンスや作家としてのスタンスが如実に出るところだと思います。難しい単語を使う、英語にする、ノータイトルなどで作品の印象ががらっと変わってしまいます。タイトル付けで私が影響を受けているのは、銅版画家の重野克明さんです。つい先日も重野さんの展示を観てきたのですが、やっぱりかっこよかったです。大学院生の時、重大なテーマじゃないと作品にならないのかもしれないと考えていましたが、重野さんの作品を知りモチーフやタイトルの軽やかさに衝撃を受けました。「この人の作品は自分にしか分からないはずだ」と思わせたら良い作家だと聞いたことがありますが、正直、重野さんの作品の良さは私にしか分からないんじゃないか、と思っています。当然重野さんにはそんなファンがたくさんいるのですが。(日本橋高島屋 美術画廊Xでの「重野 克明 新作 猫画展ーあそぼうよ!」は5月23日までです!)

タイトルの右隣(③)にはサインが書いてあります。私は筆記体が書けないのでローマ字で「KAORU」と単純なサインを書いてます。誰が作ったのかを主張するために入れるサインですが、無記名の誰が描いたのか全くわからない絵の方が魅力的だと感じることもあります。

エディション、タイトル、サインは基本的に鉛筆で書きます。ペンを使うと経年劣化でインクの色が抜けてきてしまうので、鉛筆のほうが持ちが良いそうです。また、絵の雰囲気や構図などによって別の位置だったり裏に書かれていたりすることもあります。それぞれの作家の個性なので、ギャラリーや美術館で地味に楽しめるポイントです。

前回のコラムでお知らせしたJIBITAさんでの銅版画展にお越しくださった方、オンラインでご覧いただきました方、本当にありがとうございました!作品を売るというのは変な行為だと常々思っていて、未だに慣れないです。ですが、絵をかわいいと言って頂けたり、なにか引っかかって下さったり、お家に飾っていただけたりする事は本当に心の底から嬉しくて、銅版画を続けててよかったと思います。以前は自分の為にただ描いていましたが、最近は観てくださる方のことや世の中のことを考えるようになりました。よくアーティスト(歌手)の方が、声が力になるとかファンレター嬉しいとか愛をありがとうとか仰ってますが、あれって本当に思ってるんだって事が分かりました。誰かにリアクションして頂ける事のありがたさはかけがえのないものです。号泣。

きょうのどうはんが



ダンジェネスの家
技法/エッチング, アクアチント, ドライポイント,手彩色 サイズ/10×10cm 制作年/2022

デレク・ジャーマンの庭のあるイギリスのダンジェネスで見た家。冬に行ったのもあり、 最果てのような場所でした。








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Author Profile
古屋郁
古屋郁(ふるや・かおる)
1991年生まれ。
武蔵野美術大学大学院版画コース修了。
ヴィルニュス芸術アカデミー(リトアニア)でグラフィックアートを1年間学ぶ。
銅版画を中心に、生物をモチーフにした制作を行う。
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