役に立たない銅版画#6- 古屋郁 -

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海外に行くことはさっぱり無くなり、ヨーロッパへの憧れや興味は徐々に薄れてきました。ただ、知らない景色の中をふらふら歩くのが趣味だったので旅行に行けないのはさみしく、たまにiPhoneで撮り溜めたヨーロッパの写真を眺めています。人物よりも建物のドアや窓などが多く写っていて、見慣れた日本の風景と全く異なる様式の建築物や装飾には、よそ者として興味を惹かれるのだと思います。
二十代半ばの頃、少しだけリトアニアという国に住んでいました。ロシアと欧州諸国の間に位置するバルト三国の、一番南の国がリトアニアです。首都であるヴィリニュスはとても小さい街ですが、旧市街の中はヨーロッパと聞いてイメージする中世の雰囲気の建物が並んでいます。
旧市街を少し歩くと、古い壁に銃弾の跡らしきものを見つけます。歴史博物館では悲惨な歴史を写真で目の当たりにし、KGBが実際に使用していた牢獄も残っています。市民が武器を持たずソ連の戦車に抵抗した”血の日曜日”、ロシア帝国への蜂起から帰ってこない戦士達のために建てられた、おびただしい数の十字架がある”十字架の丘”など、現在はソ連から独立後30年しか経ってない国の生々しい歴史の痕跡は、どんなに天気の良い日でも街全体が重たい空気に飲み込まれているようでした。私にとって戦争は、教科書で見た文字とドラマや映画の物語の中だけだったのだと、現実に起っている事実として認識していなかったのだと、思い知ったのでした。

現代のあらゆるジャンルの作品のテーマは、突き詰めていくと世界平和に繋がるのではないでしょうか。他人の哲学も喜びも悩みも、生きるか死ぬかの状況ではどうでもいい。人々がいて、生活があって、文化があるなかで自由に作品が生まれる状況自体が権力と暴力への反抗であって、プロパガンダでない創作が庶民が平和のために出来ることの一つであってほしい。リトアニアに芸術大学があり、路上で絵を売っている人がいて、工芸品が日本人バイヤーに買われて行く様子は、バルト三国の人々が命懸けで取り戻した平和でした。しかし、今危険な状況にある地域の人々に対してすぐに助けになることは何一つ出来ない。悲しいです。



リトアニアのシャウレイにある十字架の丘

きょうのどうはんが

何にもないところにドアだけぽつんとあると、なんとも言えない不思議な気持ちになります。ドアを開けたら別の世界への入り口になっていそうだからでしょうか。ロダンの地獄の門、黄泉比良坂の岩、どこでもドア、セーラームーンの時空の扉。ドアは片面づつ違う世界に接する境界線にいて入口であり出口でもあり、特別な存在に思えます。”境界を決める”というのは安心する為に必要なのかもしれません。


13のドア
技法/エッチング, アクアチント
サイズ/12×12cm
制作年/2022

この作品は山口県での銅版画展で展示します。オンラインショップからもご覧頂けます。
「古屋郁 銅版画展 DOORS」2022年3月26日(土) – 3月31日(木)
会場 : JIBITA 山口県萩市東浜崎町138-61
オンラインショップ : https://www.jibita.com







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Author Profile
古屋郁
古屋郁(ふるや・かおる)
1991年生まれ。
武蔵野美術大学大学院版画コース修了。
ヴィルニュス芸術アカデミー(リトアニア)でグラフィックアートを1年間学ぶ。
銅版画を中心に、生物をモチーフにした制作を行う。
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