役に立たない銅版画#2 - 古屋郁 -

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このエッセイには銅版画のことしか書いていません。「銅版画ってなに?」という方は#1をお読みいただけたら、すこし親近感が湧いてくるかもしれないです。前回から引き続きお読みくださっている方、ありがとうございます。がんばります。

今回は銅版画の作り方についてです。
初めて銅版画をみた方は、鉛筆でもない、ペンでもない、筆でもない質感を不思議に感じると思います。銅版画というのは、薄い銅の板を傷つけたり溶かしたりしてできた凸凹にインクを詰めてプレス機で圧を加えて紙にうつしたものです。なにを言ってるのか、わけ分からないですよね。言葉で伝えるのは難しいので、制作を一緒にやっていきましょう。でも、これを読んだらあなたも銅版画が出来るようになりますよ!というものではないので、もし、万が一、やってみたくなったら初心者向けのワークショップを探してみてください。そしてここで書くのはあくまで”私の場合”です。銅版画を知っている方には退屈だったり、間違ってるぞってなるかもしれないですが、気にしないようにします。

では制作をはじめます。

①下絵を描く

モチーフを決め、どのくらいのサイズの作品にするかを考えながら下絵を描きます。
私はいつもiPhoneのカメラロールを眺めながら、なにか気になったものを描くことが多いです。なので作品のほとんどが実際に実在する(した)もので、それぞれに超個人的エピソードがあります。日常のスケッチみたいな作品群です。



今回のモチーフは、友人の家にいるコザクラインコの〈さくらちゃん〉です。ストレートで良いネーミングは友人のお母様によるもの。ペットの名前を研究してる人がいたらおもしろいなあ、動物病院のカルテはカオスだろうなあ、といつも思ってます。

②銅板を切る

画材屋やホームセンターで売っている銅の板を加工して「版」を作ります。
さくらちゃんだけを描きたいので、金属用のハサミで形を抜き出します。(※スタンダードな銅版画ではこの工程はありません。私の作品の特徴でもあります。)

③描く

銅の板に傷をつけて絵を描いていきます。
傷の所が最終的に色がついて絵になります。傷をつける方法は沢山ありますが、ここではドライポイントとエッチングという技法を使います。

【ドライポイント】

ニードル、カッター、ルーレットなど使って銅板に直接傷をつける
↓ルーレット(ピザを切るやつみたいな道具)



【エッチング】

銅板を危険な溶剤につけて溶かす
1.表面に膜をつくる
(ドロドロの茶色い液体で表面を覆う)


2.乾いたらニードルで膜を剥がすように絵を描く


3.危険な溶剤につける
(膜が剥がれている箇所が溶ける)


4.洗う

5.描いたところが凹んでる!



④刷り


版にインクをのせて紙に刷る事で、描いた絵を見ることが出来ます。
1.銅の板にインクを詰める


2.凸面に残った余分なインクを拭く


3.プレス機にのせて、紙を上からセットする


4.プレス機で圧をかける
(ハンドルでローラーを回す)


5.インクが紙にうつる
(銅の板に描いていた絵が反転して紙に現れる)


③~④の工程を繰り返し、納得できたら完成です。
一連の流れからも分かると思いますが、絵を描いている時間より、諸々の準備や作業にかかる時間の方が長いです。設備も計算も手間も必要で、銅版画制作には様々な制限があります。作業自体がおもしろく、ハマると「なにを描こう」よりも「どうやって作ろう」の比重が高くなっていき、良くも悪くも職人的になっていきます。ですが、私が銅版画で絵を描くのはその職人的な部分があるからだと思います。なんでもありの自由の中では彷徨って逆に不自由になってしまうように、制約がある中で出来ることを探していくとぽっかり空白をみつけられたりします。かっこいい感じですが尊敬する方の受け売りです。
職人的部分をプロに依頼する事も出来ます。例えば浮世絵は、絵を描く人、版を作る人、刷る人、売る人、出資する人、と分業体制で生産しています(浮世絵は木版画なので作業工程は少し違います)。どの分野でも同じですが、関わる人が多くなれば作品の規模も大きくすることが出来ます。たくさん作ることが出来るし、自分より大きいサイズの作品を作ることも容易です。そして関わる人が多くなればなるほど、ある程度商売として成り立たなくてはなりません。私はほとんどを一人で行っているので、規模は小さいけれど気負いなく制作しています。
様々な技法や作品を知っていくと、それぞれの違いやこだわりを見つけられたりもします。それはもうマニアの世界です。



これを書いている時点で〈さくらちゃん〉まだ完成していないので、次回。
古屋郁の銅版画ふたつめは「赤いドア」です。

赤いドア
技法/エッチング,ドライポイント
サイズ/20×20cm
制作年/2020

線の部分はエッチング、そのほかはドライポイントを使いました。赤いインクで刷っています。
ものすごく単純で素朴な絵ですが、実物はインクの凹凸、紙の質感、銅板の輪郭によるエンボスなどがあり、この画像よりは数倍いい感じだと思います…。
額装するとこんな感じです↓
”ドアだけ”を描くのが好きです。どこでもドアみたいに古道具屋でアンティークのドアが単体で売られているとワクワクするし、中学生の時に実家の玄関のドアをデザインしたので思い入れがあるし、ないと困る大事な物なのにただの板ってところも良い。

Author Profile
古屋郁
古屋郁(ふるや・かおる)
1991年生まれ。
武蔵野美術大学大学院版画コース修了。
ヴィルニュス芸術アカデミー(リトアニア)でグラフィックアートを1年間学ぶ。
銅版画を中心に、生物をモチーフにした制作を行う。
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