1「作品について」
大竹伸朗は作品の幅が非常に広いアーティストです。
絵画、立体作品、コラージュ、版画、印刷物、音楽活動、写真、エッセイなど
多岐に渡る活動で知られています。
そんな大竹の代表的な展覧会の一つに「ビル景」というものがあります。
大竹は1970年代ころから現在までの約50年間で「ビル景」を欠かさず描いてきました。
「ビル景」というのは既存の風景を描いたものではありません。
大竹の中に刻まれた記憶から、東京やロンドン、香港など様々な都市の匂いや温度、騒音などがランダムに混ぜ込まれ、ビルという形を持つことで描かれる仮想の風景のことです。
そこには大竹のフィルターを通して描かれるビルが存在し、鑑賞するものに何かを訴えかけます。長い間継続してきたからこそ、大竹がずっと関心を持ち続けたのがビルという姿であり、それと同時に続けることの意味を問いかけてくるような作品と言えます。
2「大竹伸朗の魅力」
世界中に多くの芸術家がいる中でその制作過程は様々ありますが、一般的には明確なコンセプトを自分の中で固め、そこから作品完成へと目指す人が多いとされています。
大竹はそれとは真逆の作り方をおこなう芸術家として知られています。
言い換えると、コンセプトを設けずに作品づくりをするタイプのアーティストです。
自分の中に湧き起こる得体の知れない衝動を大事にし、即興性を重んじます。
作品づくりの過程で随時現れるものを柔軟に解釈し、次なるものを形作っていきます。
上述した通りコンセプトを設けないこともあるので、一貫性がないと言われることも多く、
一つのことを極める職人のような存在とは対極に位置しているのも事実です。
しかし、誰もが思いもよらないものを掛けあわせることで見事な調和を作品の中に落とし込む類い稀なる感覚は、唯一無二のものであり、そこに大竹の魅力があると考えることができます。モノクロームもありながら蛍光色も同居した作品が良い例と言えるでしょう。
両極をあえて混ぜることが大竹流であり、それは自分の中に舞い降りた正直な感覚を作品に反映させている結果でもあります。
3「大竹伸朗のある話」
著書「ネオンと絵具箱」に”松尾くんのこと”という題の、ある印象的な話があるのでご紹介します。
作品の制作場所としている四国の宇和島で起こったことです。ある食堂で「宇和海うどん」を注文していた時に大学生の松尾と名乗る男の子が話しかけてきました。
その子は佐賀の大学の四回生で現代美術サークルの部長をしており、大竹伸朗の仕事に以前から興味を持っていました。そこで制作場所である宇和島に行き、その様子を見たいとのことで訪れたのですが、偶然入った食堂にいきなり大竹伸朗本人が現れたのです。
「宇和海うどん」を一緒に食べ、そこから仕事現場などを一緒に行き、松尾君は充実した一日を過ごしたのでした。
その後、大竹が東京・新宿のCD屋に行ったところ、そこで偶然にも松尾君に再会しました。どうやら大学卒業後に、前回会った際に言われた大竹の言葉に感銘を受けて上京したのです。その後渋谷でも再会を果たすなど、偶然が続きます。
それから数か月後に大竹が松尾君のことを思い出し、貰った連絡先に電話をかけてみたのですが「現在使われておりません」とコールされます。最後に流れた電話番号にかけてみると女性が応答し、それは松尾君の母親であることがわかり、その電話番号は佐賀の実家の電話番号だったのです。
松尾君の母親から話を聞くと、大竹の「SO」という画集を持って、東京を離れロンドンに旅立ったということでした。大竹は電話を切った後思います。
「何か間違った影響を与えてしまったのではないか。」
そして、大竹の頭には宇和島の食堂で偶然に出会い、
「宇和海うどん」を二人で食べた時のことがグルグルと浮かんできたのです。
その後、松尾君がロンドンから大竹に手紙を送ってくれました。向こうで何をしているかは具体的に書いていなかったのですが、現地で楽しくやっている様子が伺えました。
その手紙以降、松尾君からの連絡は何もありませんでした。
大竹は何も作る気力がないときに、
あの松尾君の伏し目がちにはにかんだ笑顔を思い出すそうです。
そして、言います。
「こいつ一人のためにでも次に進まなくてはいけないのだ」と。
4「おすすめの著書」
大竹は様々なエッセイ集を刊行していて、独特な言い回しが特徴的で正直どれも面白いです。その中でも、比較的新しい著書である「ビ」について紹介していきたいと思います。
この本は現代美術家である大竹伸朗の日記でもあり、芸術論的側面もあります。
そしてこの本のテーマは「美」です。大竹が「美」をどのように捉えているのか。
この本を読めば、従来わたしたちが考える意味での「美」とは異なる考えを持ちながら、大竹が日々を過ごしていることがわかります。
それは日常に潜む些細なことに「美」を感じ、直感的に自分が正しいと思ったことを作品へと昇華していくという、大竹の姿や考えを感じることができる一冊となっています。
5「直島におけるプロジェクト」
次に大竹が関わる直島のプロジェクトについてご紹介したいと思います。
それが「家プロジェクト」と呼ばれるアートプロジェクトです。
具体的に説明します。大竹をはじめとする現代美術家などが、直島の本村地区にある古民家を改装し、その家そのものの空間を作品化した7つの建築物からなるプロジェクトが「家プロジェクト」です。
そのプロジェクトには日本を代表するする建築家の安藤忠雄や写真家の杉本博司などが携わりました。
その中で大竹が手掛けたのが「はいしゃ」と呼ばれる建物です。
元は歯科医兼住居だった建造物を、大竹を中心に作品化したのです。内部には自由の女神像がいたり、鮮やかな色彩であったりと、大竹ワールド全開の建物となっています。
また、その建物自体に大竹が長年制作しているスクラップブックの要素が感じられ、多様なスタイルがミックスされた作品となっています。
6「続いていってしまうことに正直になる」
大竹は著書である「ネオンと絵具箱」でこう述べています。
「自分にとって何より大切なこと、それは単純につくりたいという気持ちが自分の中で起きるかどうか、そこに尽きる。」
この言葉からもわかるように、大竹は「つくる」ということに正直な男と言えます。自分の感覚を一番大事にし、一見タブーとされているようなことでも、自分が直感で良いと思ったらそれらを織り交ぜ一つの作品に落とし込みます。
正直に出てきたものを最も大事にすること、それは彼にとってベストな選択であり、無理に整合性を取ろうとか理屈をねじ混ぜることは決してありません。
そして、彼はこうも述べています。
「続けるものじゃなくて、自分の中で続いちゃうものをやめないこと。」
続いていってしまうことが、自分が正直に向き合える対象であり、それこそが彼の人生における永遠のテーマでもあるのです。様々な都市の記憶を大竹のフィルターを通して具現化されるビルもその一つと言えるでしょう。
大竹が重んじている、アートに対する正直さや自分の感覚に素直であること。
それはわたしたちがこれからどのような人生を歩むことになったとしても、
常に頭のどこかに持ち続けなければならない大事な要素なのかもしれません。
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・著者名(PN): Time
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2019年よりライターとしての活動を開始。写真や音楽、文学、映画、演劇など幅広く興味を持つ。現在はライターとしての活動と並行しながら中編小説を執筆中。また、何気ない毎日や身近な人物に焦点を当てて日々写真を撮っている。