中世の頃、洋の東西を問わずアートは集団制作でした。[1]
時は流れ、21世紀の現代に甦った工房の名はチームラボ。
まるでアメーバのごとく、プロジェクトごとにメンバーが離合集散を繰り返します。
中世と異なるのは、作品に命を吹き込む技術。
プログラミング、3Dレンダリング、LEDとレーザー。
緻密な空間を紡ぎ出す、数百台のPC。
源泉に携わるのは、従来的に言えばアートの素人かもしれません。
現代の技術と集合知はしばしば専門家を凌ぎます。
Wikipediaがブリタニカ百科事典に勝利したように。
”眠りを覚ます蒸気船”は不意に外海からやってきました。
創業者・猪子寿之はアート界の”黒船”でした。
雌伏の黎明期
東京大学工学部出身。
アーティストとして異色の経歴です。
猪子は阿波踊りが名物の徳島市で育ちました。
秘密基地で遊んだ近所の城跡が原風景。
インターネットの可能性に魅せられた青年は上京するも、無味乾燥な大学時代を過ごします。
卒業後は就職より”文化祭の準備が永遠に続く”日常を求めました。
「友達とずっと一緒にいたかったんだよね」[2]
同級生と果たした創業は2001年。
新世紀とともに船出したものの、しばらく不遇が続きます。
受注委託をこなしながら、『美の壺』や大河ドラマ『花燃ゆ』のCG制作など、卓越した技術に裏打ちされた独自のセンスは次第に脚光を浴びていきます。
逆輸入からの飛翔
3D空間を魚のように舞う水墨画。
自然界の”引き込み現象”を再現し、平和を暗示した阿波踊りを表示するスマートフォン。
奇異なものは直ちに受け入れられないのが世の常です。
チームラボのデジタルアートも迂回を余儀なくされました。
目線の先は新興国シンガポールでした。
展示は一躍注目を浴び、常設に。
国内の認知が高まる頃には創業から15年が経っていました。
「産業としてのアウトプット先はないが、何か未来のヒントがあるかもしれないもの」[3]
「世界の見え方を変えてくれるもの」[4]
を猪子はアートと呼びます。
「社会が健全なら、いつか需要はある。なぜなら社会は未来に行きたいから」
そう信じていました。
ローカルからグローバルへ
”情報化によって世界は均質化する”
”お家芸の技術は飲み込まれ、独自のカルチャーだけが残る”
ローカリティが価値になる時代の到来にいち早く気づいた猪子は、作品に”和”を積極的に取り入れました。
江戸時代の絵師、伊藤若冲や葛飾北斎の画風もそのひとつです。
日本の強みは、茶道にみられるような特有の”こだわり”だといいます。
独自の仮説では、平安絵巻の俯瞰構図がファミコン画面の絵面に伝承され[5]、
歌川広重の浮世絵の雨は西洋と見立てが異なるとしました。[4]
西洋科学に依拠しつつも、西洋美術を否定。
日本固有の”超主観”的な空間認識に依拠します。
ひたすら温故知新。
和洋折衷より、和魂洋才。
インターネットによって国境が溶けるはずの世界は、目論見に反して逆流を始めました。
そんな状況で、猪子が訴求する思想『Borderless』は、『Pace』を主催するニューヨークやシリコンバレーのIT起業家の理念と共鳴します。
アートの本分は「時代の本質を端的に映し、未来を指し示す」こと。
ローカルの思想は、こうしてグローバルの欲望に接続しました。
常識をゼロから疑う
猪子たちの制作作業はいつも明け方まで及びます。
愛読した漫画雑誌の“友情・努力・勝利”の原則がチームラボには通底しています。
規格外の発想は、どこから来るのでしょうか。
日本的”和”を重んずるも、同調や「なあなあ」とは距離を置きます。
求められるのは、あくまで尖った”個”の集合。
独創には足し算より掛け算が物を言います。
猪子自身、あらゆる常識を”ゼロから”疑い、染みついた衣食住の概念をも捉え直しました。
パフォーマンスを最大化するため、服はお気に入りのみ。
家の意義さえ疑い、あえてホームレスを体験した時期も。
食事は夜な夜な独自の鍋。
原始に返り、調味料を使わず、具材を丸ごと投入します。
調理の発明で消化効率が上がり、ふんだんな栄養で脳が飛躍的に進化した人類。
余剰の時間で文明が発達したと自説を展開します。[6]
”現象を削ぎ落とし、シンプルな本質を見せる”
成果物は日々の実践の賜物です。
アートが向かう先は?
人工知能(AI)の発展はすさまじいものがあります。
レンブラントの模倣にとどまらず、創造した絵画は高値で落札されました。
人がいま、追求すべきアートとは?
誰もが発信できる個の時代、AI の時代にこそ、集団の価値は輝きます。
そして猪子は言います。
「創造力は文化のうえに成り立つ」[5]
人類が育んできた歴史性こそ、AI がもち得ない優位性です。
猪子然り、岡本太郎然り、強烈な個性は人を惹きつけます。
最上のアートとは、表現者のストーリーさえ”絵”になること。
AIがいずれ身体を持とうが、固有の人生が侵食されることはありません。
”個”のチーム、伝統文化、テクノロジー、そしてストーリー。
これから始まるルネサンスのヒントは、この男の生き方に散りばめられています。
参考文献/サイト
[1] 高岸、江川 「芸術家と工房組織の経営」 経営行動科学 2010 年 23 巻 1 号 p. 79-86
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas/23/1/23_1_79/_article/-char/ja/”
[2] リクナビNEXT「プロ論。」 2014年6月18日
https://next.rikunabi.com/proron/1428/proron_1428.html”
[3] TBS 「情熱大陸」 2012年07月15日
https://www.mbs.jp/jounetsu-old/2012/07_15.shtml”
[4] 猪子寿之x堀江貴文 「アートが変える未来」 2017年3月27日
https://shingakunet.com/journal/learning/20170327183411/”
[5] TED 「日本文化と空間デザイン~超主観空間~」 2013年2月16日
hhttps://www.youtube.com/watch?v=2szRkXyCxss”
[6] TABI LABO 「TAKI BITO #4」 2017年2月28日
https://www.youtube.com/watch?v=mFuLE7n5bY”
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著者: Cartus
プロフィール: 文学・音楽・映画・現代アートなどジャンルを問わず、アーティストの創造力がどのように生み出されるかに興味があります。