あなたが「賢い」ほど、絵は「下手」になる- 96こげ -

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イラストに関する質疑応答やイラストの楽しさを広める活動をしている96こげさんに、絵に初めて挑戦したときに陥る「頭の中にイメージはあるのに!全然描けない!」現象について執筆いただきました。

この猫の足は何本だと思いますか?

きっとあなたは「4本」と答えるはず。もちろん正解です。
それはあなたが「猫は4本足」という知識を持っているからです。
誰でも知識や情報を集めることで賢くなりますよね?
あなたも学校や両親、友人、本、スマホ、動画などなど、いろんな媒体から情報を集めることで子供の頃より賢くなっているはずです。

でも、残念ですが賢くなるほど絵は下手になります。

●知っているのに描けない

あなたにはこんな経験がありませんか?
「頭の中にイメージはあるのに!全然描けない!」
「毎日合っている人間の顔を描こうとしても手が止まる」
「いつも見ていて、知っているはずなのに!どうして描けないの!?」

脳や記憶としては完璧に、むしろ鮮明に覚えているはずなのに、なぜか絵にしようとするとそれが形にできない。歪(いびつ)な物体しか描けない。
知っているのに描けない。

わたしも経験があります。というか、絵に挑戦したことがある人だったらほぼ100%経験があるのではないでしょうか?
描けない原因を「才能・センス」のせいにする人も多いですが、わたしは違うと思います。

描けないのはあなたが賢くなったからです。
あなたが賢いほど、絵は下手になります。

●賢い人ほど情報に変換する

最初に「情報を集めることで賢くなる」と言いましたが、人間は賢くなればなるほど情報の扱いが上手くなります。具体的に言うと、見たモノの形や特徴を言葉・文字に変換する能力が発達します。

この能力があるからこそ、人間は他人とコミュニケーションが取れます。
言葉・文字を使うことで、自分の考えや情報を相手に伝えます。
逆に、言葉・文字から相手の考えや情報を受け取ろうとします。
賢くなればなるほどこの能力は成長して、扱える情報の数や種類が増えていきます。
この能力を伸ばすことで、人間は他人とのコミュニケーションが円滑にできるようになり、学校や会社で集団生活ができるように進化してきました。

そして、人間は効率的なことが大好きです。
複雑な視覚情報よりも、シンプルな文字情報の方が効率的だと気付きます。
木の絵を描いたら何時間もかかりますが、漢字で「木」と描けば2秒で伝えられますよね?
逆に言うと、「木」という漢字さえ覚えれば、複雑な木の視覚情報は必要ありません。
このポイントに気付いた人間は、視覚情報から細かい形・形状を覚えることを放棄します。
その方が効率的だからです。

つまり、賢い人ほど最初の猫のイラストが「情報」として見えています。

たぶん、あなたにも同じように見えているはずです。

●情報の正しさを優先するほど「下手」になる

当たり前ですが、情報を並べても絵にはなりません。
でも「賢い」からこそ正しい情報に頼るようになります。
「情報は正しいはずなのに」「もしかして情報が足りないのかも」
誰もが正解に近づくと信じて、もっとたくさんの情報を集めようとします。
そして、集めた情報を全部乗せして描いた絵はどうなるのか?

伝わりやすくはなります。
「たぶん、コレを描いたんだよね・・・?」と想像してもえるはずです。
相手も賢いので、ちゃんと情報を読み取って気付いてくれます。

でも上手くはなりません。
情報ばかり優先して、大切なモノを無視しているからです。


●絵は「見た目」が9割

当たり前すぎてみんな忘れがちになりますが、絵で大切なのは「見た目」です。
ファッションやメイクと同じですね。
人に見せるために描いたなら「見た目」が9割です。

そして、絵で見た目に大きく影響を与えるのが「シルエット」と呼ばれる輪郭線です。

シルエットがそれっぽいなら、めちゃくちゃ簡単に伝わります。
もう余計な言葉は必要ないですよね?

辞書に載っているような情報を集めても、絵は上手くなりません。
逆にそういった情報を削ぎ落して、シルエットだけ抽出したほうが伝わりやすくなります。
賢い人からしたらナンセンスです。

絵を描くということは人類の進化に逆行した、とても「賢くない」行為です。
わたしは大好きですが、描かない人からしたら謎だと思いますよ。

●非効率的にするほど絵は良くなる

わたしが「絵に大切なのはシルエットですよ」と解説すると
「どうすればシルエットが描けるようになりますか?」
という質問が出てきます。
やっぱり人間は賢いですよね。常に効率的に成長する手段を探そうとします。
答えはとてもシンプルです。



たくさん観察して、たくさん描くこと。


描きたいモノをよく観察して、実際に描いてみて、何度も何度も修正する。
もうこれしかありません。

自転車に乗る練習と同じです。
「身体でバランスを取る」「ペダルを早く漕ぐ」「ハンドルはまっすぐ持つ」など、いくら言葉や理屈で説明しても子供は理解できません。
何回も失敗して、何回も転んで、それでも挑戦してやっと乗れるようになります。

絵もシルエットを描けるまでにたくさん失敗します。
それでもひたすら描くしかありません。
めちゃくちゃ非効率的ですよね。

●みんながやらない、やらないから価値がある

絵を描くということはとても非効率的な行為です。
視覚情報を伝えるだけなら写真で十分ですからね。スマホで事足ります。
みんなこんな面倒くさいことなんてやりません。
でも、だからこそ価値があります。


誰もあなたほど熱心に観察しません。
誰もあなたほど夢中になってペンを動かしません。
誰もあなたほど楽しそうに絵を描きません。

だからこそ、あなたの作品は磨かれます。
みんなが描けないような世界に1枚だけの作品になります。
賢い人たちは「あんなことに時間を割くなんて非効率的だ」と馬鹿にするかもしれません。

この記事を読んだ後、あなたがペンを取るかどうかは自由ですが、一度シルエットを意識して観察してみてください。「え?こんなカタチなの?全然想像と違う」と驚くと思います。
そしてあなたは既にシルエットを優先した方が絵は良くなることを知っています。

・・・どうですか?試したくなりませんか?







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96こげ
イラストの描き方を解説しています。
プロではありませんが「描く」「調べる」「シンプルに変換する」ことが
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