―――日常生活の記録や記憶を残すには、もはやスマホで十分綺麗な写真が撮れる現代。
そして「撮影してシェアすること」が当たり前になった時代だからこそ、デジカメでより高画質な写真を撮り、主にSNS上で「映える」ことを目的とした活動をするフォトグラファーも増えてきた。
カメラメーカーもそのニーズを逃すことなく、より簡単に、より便利な撮影体験を提供できるよう、各社様々なカメラやレンズ、システムの開発に力を注いでいる。
そんな、誰もがハイクオリティな写真を撮れる現代において、1953年製のジャンクレンズでノイジーな写真を撮る背徳的な男がいた。おまわりさん、僕です。
今回の記事では、祖父が遺したオールドレンズとの出逢いと、「自分に合った道具」についてお話しします。
そのレンズの名は「ジジクロン」。正式名称は、Summicron 5cm f2である。わかりやすく言えばフィルム時代のライカのレンズだ。とても古い。タイトルにも書いているけど1953年製のレンズで、沈胴式の活かしたレンズである。
僕がこのレンズと出逢ったのは、祖父が亡くなる直前だった。芸術家だった祖父は写真以外にも、絵やら書道やら彫刻やら何かと手を出していたようだが、全てお金目的で周りの人間に持って行かれたと聞いた。
そんな中でも手離さなかったのがカメラ一式。当時まだ学生の僕が「最近写真が好きでな〜」と話すと、数週間も寝たきりだった祖父が身を起こし(それはもう看病していた親族が感動して泣き出すほどのパワフルさで)「カメラ持ってこおおい!!」と叫び、ボロボロの黒鞄に収められたカメラ一式を譲ってくれた。
写真が好き…と言っても雑貨屋で売ってるようなトイカメラで撮った写真を祖父に見せようとしていた僕は、その重圧 a.k.a 親族からの「このドラマチック展開でお前がカメラを継ぐんや…」という視線に押し潰されそうになっていた。
そう、当時の僕はカメラマンではなくビレバンが好きなだけのただのサブカル少年だったのだ。
そうしてすぐに祖父は亡くなり、それから実は、僕は数年そのカメラ達を放置していた。というのも、実際に修理に出してみようとしたが学生身分には高い金額の修理費用がかかり、あまり前向きになれなかったのだ。
しかし時は進み、世に「ミラーレスカメラ」が生まれたことによって「マウントアダプターを挟んでオールドレンズ(=フィルム時代のレンズ)を現代のカメラに装着する」スタイルの撮影が流行ることになる。つまり、カメラを修理しなくても、レンズは使えるということ。
僕は社会人になり、見事に趣味でカメラを始めていた。1953年に生まれ、祖父の生きた歴史を残したレンズが、平成のテクノロジーによって、令和を生きる僕の使用機材として蘇ったのである。
ちなみに今更だが「祖父(ジジイ)」がくれたズミクロンで「ジジクロン」と命名した。
田舎の倉庫で防湿もされず何十年も眠っていたこのレンズは、所謂「ジャンク」に近い状態だった。コーティングがボロボロなのか晴れた日中に使うと光が飽和し、絞りを調節する機構は錆だらけで動かない、あとピントが合いづらい。簡単に言うと使いづらい。山道に捨てられたチェーンが錆びて車輪が回らない自転車くらいに思ってほしい。
ただ、そのジャンクらしい光の飽和が、現代の街を灯すネオンや夕暮れとマッチして、独特の光の表現をしてくれる。既にレンズが描写できないコントラストや色は、現代の技術でもある現像ソフトで賄える。
現代的ではないとても不便なレンズは、「だからこそのオリジナリティ」を僕に与えてくれた。誰もがハイクオリティで綺麗な写真が撮れる時代に、僕は光も色も破綻した、ノイジーな写真を撮っている。周りが電動自転車でスマートにスイスイ進む中、僕はチェーンが錆びて車輪が回らない自転車を抱えて汗びしょびしょで走っていた。
そして、卵が先か、鶏が先か、みたいなところもあるけど、僕はその世界観が好きだった。
本当は「自分が好きな世界観を表現するための道具として機材を探す」のが正規ルートなんだろうけど、僕はたまたま祖父から譲られたこのレンズで「あ、好きなのこの雰囲気だ」と気付かされ、そこから派生して今僕が主な被写体としている「光の写真」というスタイルに繋がっている。
今ではフリーランスとして活動する僕は仕事において何十万円の機材を使うことが多いけど、表現活動という点においては機材のブランドや金額にこだわりはない。
大切なのは、その道具が自身のスタイルに合っているかだ。外国のイケてる叔父さんがGibsonの100万円近いギターで弾くロックもカッコいいけど、うちの親父が近所のハードオフで買ってきた1万円しないギターをカスタマイズして弾くブルースも渋い。
自分に合った道具で、自分の世界観を表現する活動家はとても魅力を感じる。
これからも僕は、祖父が遺した古いボロボロのレンズで、現代の記録を残し続ける。
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