映像の世界へ足を踏み入れたきっかけ
北海道に生まれ、幼い頃から冬になると必ず、親にスキー場へ連れていってもらいました。16歳の時、スキーからスノーボードへ転身し、翌年の17歳からはアルペン スノーボードの日本代表選手として、ヨーロッパや北米、南半球など世界中を飛び回る生活。19歳の時に、大会の滑走時に転倒してしまい、手術を伴う大怪我をし、長い入院期間を経て、再びスノーボードに挑むも、怪我をした時の恐怖心がぬぐえず、スノーボードの世界から離れることに。
しかし、しばらくして当時の日本代表のコーチから、カナダ・ウィスラーへの留学を勧められ、次にやりたいことも決まっていなかったので、その勧めを受け、カナダへ留学に渡ることに決めました。
その留学先でのある日、1本のフリースタイルスキーのDVD映像に出会います。その映像に衝撃を受け、映像の世界に興味を持ち始めました。たまたまウィスラーに住んでいる日本人の写真家と繋がることができました。その写真家から、知り合いのカナダ人撮影監督がスキームービーの撮影を行うので、撮影を手伝ってくれる人を探しているという連絡を受け、即答で撮影に同行することを決めます。
撮影現場に始めて入る場合、機材運び等をしながら周囲の様子を観察し、撮影を見学させてもらうのが本来正しい姿かと思うのですが、当時の私は、なんと友人から借りたホームビデオを片手に持ち、撮影監督の傍ら、自身でも撮影を行っていました。今思えば、かなり失礼な奴ですが、映像に興味を持ち、はじめて被写体を目の前にして、居ても立っても居られない状態だったんですね。夢中になって撮影に没頭していました。きっと当時の撮影監督は迷惑な奴が来たと思ったことでしょう。
その撮影の帰りの充実感たるや、今でも鮮明にあの時のことを思い出すことができます。帰宅途中のバス停で「これで飯を食っていこう」と決めました。
独学で映像の世界へ
ずっとスノーボード競技の世界にいたため、パソコンも触ったことがなく、まずは友人にパソコン操作を教わることから始めました。カナダから日本へ帰国した後、すぐに業務用機材を揃えました。ただ、パソコン操作もままない人間に、当然業務用の機材が扱えるはずもなく、露出やシャッタースピードなどの使い方もわからず、初めて撮影した映像は真っ白でした。
さすがにこれはマズいと思い、タウンページに掲載されている映像制作会社に手あたり次第電話をして「お金はいらないから、働きながら勉強させてほしい」と伝えました。でも、見ず知らずの人間の突然の連絡に、応じてくれる会社はありませんでした。困り果てた頃に、友人から、ミュージックビデオの制作会社を紹介するよと連絡が入ります。迷わず、そこで勉強させてもらうようお願いしました。
勉強と言っても、何かマニュアルや丁寧にレクチャーを受けられるわけではなかったので、とにかく見て学びました。見よう見まねで撮影し、どう撮影したら、どのように映像になるのかを確認する、それらを繰り返します。何かわからないことがあれば、インターネットにある映像プロの掲示板で、質問して教えてもらうこともありました。当時は収入がなかったので、昼間は運輸会社で働き、夜は制作会社で勉強するという日々を2年くらい続けました。
料理との出会い
フリーランスで映像の仕事を受けていましたが、友人からある会社の求人を知り、一度くらい社会勉強も兼ねて会社に所属してみるかと思い、入社することに。そこでは、社内でホテルのテレビコマーシャルの制作をしていて、美食の打ち出しを強化しようとしていたところでした。世界最高峰の料理コンクールと言われるボキューズ・ドールやフランスの星付きレストランなどの撮影現場の経験を重ねていきました。
ただ料理の撮影は、レストランの営業時間外に行うために、朝早くから撮影し始め、夜遅くまで時間がかかることが多く、どちらかというと嫌いな分類でした。基本的に、自分の好きなこと以外に時間を費やすのが嫌で、食べるのも寝るのでさえも時間が惜しいと感じていました。ましてや何時間もかけて食べるコース料理には全く興味がありませんでした。
ところが、北海道の幼なじみの親友が都内の新宿にある割烹で切り盛りをするようになります。お店に食べに来るように誘われ、食べに行くことにしました。その時初めて、純粋に「美味しい」と感じました。昔からその親友のことを知っていたため、その親友がこの繊細な料理を作り出しているというギャップに、大いに興味が沸きました。料理を作り出す人に関心を持つようになったのはこのことがきっかけです。
その後、親友は自身のお店を青山へ開業しました。時期を同じくして、僕自身も会社を辞めて映像の会社を設立することに。
独立
同じ会社に長いこと所属するとどうしても視点が変わらず、世界が狭くなっていく。そうなると、誰も幸せにならないし、自身の成長にもつながらず、ましやて会社にも貢献できないと思い「今後は、自分の撮りたいものを撮る」そう思い、独立することに。
独立した後、親友のお店へよく通っていました。開業したばかりであまり予約が入らず、当日に予約なしで突然お店に行っても入れてしまうような状況でした。そこで、宣伝のためにショートフィルムをつくることを提案します。7日間に渡り彼に密着してみて驚いたことは、料理が作り出されるまでの工程の多さでした。なぜその魚を選ぶのか、なぜそのお皿に盛り付けるのか、料理一つ一つに哲学があったんです。昔の自分は、料理をきれいに見せようとすることばかりを考えていて、本質的ではなかったことに気づかされた。そこから料理人である親友に対する興味から、料理の世界にどっぷりと浸かっていきました。
料理人を追ったドキュメンタリーシリーズ「THE ART OF PLATE」
当時、僕はある料理雑誌の出版社が企画するお店の紹介動画を制作していました。その企画は始まったばかりであまり予算がなく、その担当者は十分なギャラが払うことができないことを申し訳なく思ってくれていました。自分は料理の撮影はやりたくてやっているので、ギャラは安くても構わないと伝えていました。
ただ、そう遠くないうちに、料理人のドキュメンタリー映像を作りたいと考えていたため、その担当者にある条件にあう料理人を紹介してほしいと伝えました。その条件は3つあり、30代までの年齢で、オーナーシェフであること、そして今後星をとるような可能性があるということでした。その担当者は喜んで引き受けてくれ、何人か紹介してもらうことになりました。
柴田シェフとの出会い
まずは紹介してもらったお店へ食事に行きました。どのお店も料理はよかったのですが、柴田シェフの料理は、美味しいの種類が違うと感じました。食べた次の日にも料理の味を覚えていたんです。
食事が終わった後、柴田シェフと話していくうちに、その人柄にも惹かれました。ドキュメンタリーは長期間、密着して撮影するので、表面的な部分だけではない部分を引き出す必要があります。つまり被写体との信頼関係がないと、被写体の本心を引き出すことができないのです。この人となら信頼関係を築いていける、そう思いました。あとは目ですね。料理の話をしている時の眼を見ると引き込まれる何かがあるのです。
将来彼は星を獲ると直感的に感じました。※
被写体と自分の経験を重ねる
2016年に柴田シェフと出会い4年間に渡り密着しました。世の中のスターシェフは、華があったりイノベーティブな料理や変わった食材を使用したりしていますが、柴田シェフは突飛なことをするタイプではありません。ただひたむきに日々のお客様と向き合い、料理にまっすぐです。本当に素晴らしい料理人で、料理以外には興味がありません。才能という意味ではとびぬけたものがあるということではないのかもしれませんが、積み重ねたものが大きく山になるということを彼は自身の姿で現していました。
また、過去の自分とも重なる部分がありました。スノーボードのアルペンは、タイムを競います。体重が重いほうがスピードの加速が出やすく、背丈の大きい海外の選手に比べ、背丈の低い自分には既にハンデを背負っていました。そのハンデをどう克服するかを常に考えていました。結果の出ない時期でも、トレーニングを重ね続けるモチベーションを保つことの難しさを経験していました。ひたすら努力し続ける姿勢を見て、どこかそんな過去の自分を投影していることにいつしか気づきました。
料理を撮影する上で大切にしていること
料理人の裏側に迫っていると、その生き様が美しいと感じます。過去の挫折や経験を含めて、人生を豊かに生きていると、それが料理に反映されてきます。だから、その料理人の人生の一部を知った上で、その料理と向き合う(撮影する)と必然的に、映像にもそれが表れます。目の前の瞬間に全身全霊で向き合うこと。ただそれだけです。
※ ラ クラリエールは、2019年にミシュランガイド東京にて一つ星、2021年にはゴエミヨで明日のグランシェフ賞を獲得した。 クラウドファンティングを立ち上げたい方はコチラから
The art of plate エピソード1>
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1999年スノーボード日本代表に選出
2000年ドイツで開催された世界大会で銀メダルを獲得
2003年競技引退後、カナダに渡り独学で映像を学ぶ
2013年全日本CM連盟主催 ACC CMファイナリスト
2014年株式会社ルブトンワンを設立
2019年LINE 縦型に特化した映像メディアVISION で一皿の芸術、Two Snow Ridersを配信
2020年THE ART OF PLATE 配信開始
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