「NOVELS WARS」 #8- 嶽本野ばら -

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お前らゼロか?ゼロの人間なのか?小説家になるのもいい加減にして、一生ゼロのまま終わるのか?お前らそれでも芥川賞目指してるか?悔しくないのか!!皆さまがお待ちかねの嶽本野ばら先生の作家志望者への小説教室、待望の第8回目が公開です!

このエッセイは小説が書きたい作家志望者にアドバイスをする熱血文章である。日本文学界に於いて全く異端の僕が、僅か数分で、無名で荒廃している今の貴方を未来の芥川賞作家に仕立てる奇跡の技を余すところなく伝えるものである。

(オープニングテーマのイントロが鳴り、)

ノベルズウォーズ

(タイトルの後、法善寺横丁から千日前方面へとカレーを食いにやってくる男を叩きのめしておけるのならば……)

第8回 愛すればカレー

(——サブタイトルが入ります)

抽象的な小説技法の話はこれくらいにし、貴方が実際の作品を書く為、手取り足取り実践を伝授していきましょう。芥川賞を獲らせるの文言は冗談ではない。僕は真剣です。
しかし、いきなし書きましょうといわれても、どうしていいか解りませんね。
最初にひとマス空け、「私は猫ではない」「今日、国境のトンネルを抜けた先でママンが死んでいた」と書きなさい。指示したなら、同じ書き出しのものが無数に作られますし、そこまでの親切はやれません。ですが題材は自分で選ぶしかないと、当たり前をいうつもりもありません。僕は面倒みのよい人間です。
それにこの“何を書くか”で、初心者は悩みまくりその先に行けなくなる。
はっきり申しましょう。題材なんてどうだってよろしい。
考えて欲しいのは純文学にしたいのか、ミステリにしたいのかラノベにしたいのか、純文学でもラノベでもないアンチ・ミステリとしてのミステリというような、家探しでいえばマンションかアパートか、マンションならユニットバス、セパレート、セパレートが譲れない場合、アパートも可か——自分が書きたいジャンルの条件です。決めたなら、ネタを仕入れに取材に行きましょう。一流の料理人でも魚がなければ刺身は出せません。
何処に取材に行くか? 当然、自由軒です。大阪の難波にある創業明治43年の大衆食堂です。織田作之助が通い、代表作『夫婦善哉』の中にも登場するライスカレーが今もあるお店です。そこで名物カレーを食べ、それに就いて書くのです。
ええ、食レポですよ。でも侮るなかれ、タレントも作家も食レポは基本です。関西に住んでいるなら近鉄電車や地下鉄に乗ればいいのですが、遠方に当たる方だと新幹線を使ったり夜行バスでのちょっとした旅行になってしまいます。自由軒じゃなくても何処でもいいではないか、CoCo壱にしてくれないか? 頼まれても譲りません。だって織田作之助はCoCo壱のカレーを食べないのですから。

取材の方法はそれぞれの事情があるので自由です。この時、貴方はノートとペン、写真を撮る為のスマホなどを用意するでせう。
白字のロゴの入った青い暖簾を潜り、店内に入ります。周囲を観察しカレーだけでいいかな、カレー付サーロインステーキがいいかな、考えますがそこは勝手にして下さい。
注文するとまもなく眼の前に名物カレーがやってきます。貴方は先ず、写真を撮るでしょうが……小説の取材とは思うまい。インスタ用だと予測されているだろう……撮りまくるでしょうが、それが素人の浅はかさ、無論、撮るに越したことないのですが、それよかメモが大事なのです。
僕は大抵、絵を描きます。店内のレイアウト、出てきたカレー、素早く絵と文字でうつしていきます。どれだけ写真を撮っても、文章化しようとするとディテールが意外に思い出せないものです。なんでこの部分、撮っておかなかったのかな、常に悔やみます。
自分のメモなのだから絵が上手い必要などない。大雑把に描いて気になった点を文章にしておく。「卵のってる」「茶色というか黄土色」「ネトネト」「お皿に自由軒のロゴ、赤い」——文章化する時はこのメモ書きの感想が最も役に立つ。何故ならメモをとる時点で、印象が既に言語化されるからです。

(筆者に拠る最近の取材メモ)

小説は全てを言葉で表すものですから情報は悉く文章に変換されなくてはならない。
メモは写真の補足ではなく写真がメモの補足です。例えばメニューの全てを写真で抑えても、その紙質がどのようなものだったかを思い出せないことがあります。写真を拡大しても上質紙だったかマット紙だったか解りません。でもメモを第一に臨んでいれば、メニューを捲った時、あら、少し厚みのある紙だこと、記しておけます。
記したということは貴方がそれを気にしたということです。そこで描写の際、「メニューを捲る」と書く人、「少し厚みがあり過ぎるのでは?と思われるメニューを捲る」と書く人の差が生まれる訳です。写真を撮ると取材をした気にはなりますが、それで安心してしまうので情報が頭に残りません。これでは赴いた意味がない。ネットでググって書く人と同じになってしまいます。わざわざ足を運べと指示した意味がお解り頂けたでしょうか?
現地取材にはもう一つ重要な役割があります。違う席で同じ行為をしている人がいたら作家志望だと気付けますので、貴方は今のうちにその人の手をフォークで突き刺すなどして才能を潰せます。それくらいの卑劣と姑息を持ち合わさなくては、作家になれやしないのですよ。ということは……フォークも出てくるメニューの方がいいってことですかね。

「ノベルズウォーズ」  #1~#8はコチラ




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Author Profile
嶽本野ばら
嶽本野ばら(たけもと・のばら)京都府出身。作家。
フリーペーパー「花形文化通信」編集者を経てその時に連載のエッセイ「それいぬ——正しい乙女になるために」を1998年に国書刊行会より上梓。
2000年に「ミシン」(小学館)で小説家デビュー。03年「エミリー」、04年「ロリヰタ。」が2年連続で三島由紀夫賞候補になる。
同年、「下妻物語」が映画化され話題に。最新作は2019年発売の「純潔」(新潮社)。
栗原茂美の新ブランド、Melody BasKetのストーリナビゲーターを務め、松本さちこ・絵/嶽本野ばら・文による「Book Melody BasKet」も発売。
公式twitter @MILKPUNKSEX
公式ブログ https://ameblo.jp/dantarian2000/
公式ウェブサイト https://www.novalaza.com
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