「NOVELS WARS」 #22- 嶽本野ばら -

ホーム Novel

このエッセイは小説が書きたい作家志望者にアドバイスをする熱血文章である。日本文学界に於いて全く異端の僕が、僅か数分で、無名で荒廃している今の貴方を未来の芥川賞作家に仕立てる奇跡の技を余すところなく伝えるものである。

ノベルズウォーズ

(さていよいよ実践編、新章に突入します!)

第22話
勝ってから泣け——又は、登場人物が勝手に動くとは?


(『スクールウォーズ』を最近、全話、観直したのですが、大木大助役の松村雄基、カッコいいです。当時は眉毛濃いなーとしか思えなかったんですが、今、雄基サマにメロメロです)

 以上が、この未来の芥川賞作家をインスタントに養成する親切丁寧な小説講座の為の、サンプル短編——です。なのでここからは、これを例にしながら、より実践的に小説の書き方を受講者には指導します。
 #9で示しましたように書き出しは「カレー、マズゥー」にしました。#8で自由軒に取材に行きましたからね。貴方と同等の条件で僕は『がんばれ太宰くん』を書き出した訳です。貴方には、カレーとライスが最初から混じった自由軒の名物カレーを取材しなさいといいつつ、自分はそれとほぼ同じ内容のものながら、もう少し北に上がった、アメリカ村の外れにあるB級食堂の名店、ニューライトのセイロンライスを知っているし、そちらの方が断然美味しい——とセイロンライスのことを記し、抜け駆けすることも可能でしたが、指導者たるもの狡いことをしてはなりません。
 「カレー、マズゥー」を「カレー、不味ぅー」にしたのは登場人物が主に近代文学の作家達だからです。「珈哩、不味ぅー」と表記やるも可能なのですが、その辺りは好みというかセンスです。今回はネットでの掲載、ルビがふれない前提を考慮、「カレー、不味ぅー」を妥当だと僕は判断しました。
 しかし太宰治が主人公です。彼の文章の癖のようなものは意識しなければなりません。ですので、#16でのよう「転ぶだけでよい」——の“よい”は“好い”——「転ぶだけで好い」になります。プラモデルを作る時、パーツのバリ取りをするようなこういう丹念な調整が最終的に作品全体の強度を決定すると僕は考えます。後で全部、自動変換してしまえばいいや!という怠慢をすると、作品の調べを壊す元になりかねません。“よい”の場合は“良い”なのか? “好い”なのか? その時々で推敲していく面倒な工程こそが、文体を作る作業だと思います。
 肝心なセンテンスは一番最初に持ってくる——と#9で教えましたが、実際、『がんばれ太宰くん』はこれが全てです。この一文を書いた時、僕は織田作之助と太宰治が出てくる話を執筆すること以外、何も考えていませんでした。坂口安吾が登場することも予測しませんでしたし、三島由紀夫が軍服姿で現れることも構想にはありませんでした。
 よく作家は、登場人物達が勝手に動き出す——と、口にします。お前が作った物語じゃないか、嘘吐くな、僕も若い頃は信じていませんでした。が、結局はそういうことになります。音楽でいうコード進行のようにCで始めればDm、Emというふう次の選択肢は自ず、決まってしまいます。無茶を承知で、私は誰もやらなかった進行を敢えて使用すると頑張ってみたところで、単に下手クソと罵られるだけです。そのコード進行のようなものに準じていくと、予め書こうと決めていた場面、台詞が出てこない場合が多々、ありますが、諦めて下さい。必要ならば必ず出番がきます。出てこないのなら必要なかったのです。その場面や台詞の単独の響きのカッコよさに、貴方が一人で陶酔していただけだったのです。
 『スクールウォーズ』で山下真司は生徒達に諭します。「一人は皆の為に、皆は一人の為に!これがラグビーの精神だ!」。小説だって同様。「カレー、不味ぅー」と書いたからには、「と罵られるが耐えなければ」など、続くセンテンスは限られるのです。
 108対0で試合に負けてもヘラヘラしている部員達に山下真司が愛の鞭、涙の鉄拳を振うシーンがどれほど感動的だったとて、「カレー、不味うー」の後が「真司はそう言って部員達を殴った。その拳は涙で濡れていた」では、読者は胸を打たれないでしょう。カレーが不味い怒りを生徒達を殴ることによって解消する八つ当たりの変な教師の物語としか読んで貰えない。「一つのセンテンスは次のセンテンスの為に」——登場人物達が勝手に動き出というのは、つまり作者の思惑を越えて、言葉が次の適切な言葉を連れてくることの比喩なのです。
 松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」のスゴさは、情景を17音に読み込んだことでなく“古池”を“や”で受けてしてしまった場合、次は「蛙飛び込む水の音」しかあり得ないを示したことです。これが「古池に」ならば違う中七と下五が生まれ「蛙飛び込む水の音」が最良とはいえなくなる。「古池やは、蛙飛び込む水の音の為に、蛙飛び込む水の音は、古池やの為に! これが文学の精神だ!」なんですよ。「古池や真司が殴るラグビー部」が、ダメなことくらい誰にでも解るではないですか。
 新しい文学を!と意気込む血気盛んな貴方にこのロジックはなかなか理解して貰えないかもしれません。でもそういう流儀もあるというのを頭の片隅に置いていて欲しいのです。でないと、貴方がこの世界を去り、冥界の文豪村の住人となる際、苦労いたしますよ。あすこは井原西鶴や近松門左衛門すらカースト制度の中央に甘んじる厳しい社会ですから。中でも松尾芭蕉は礼節に厳しく、新参が「古池やでも、古池にでも、いいじゃないっすか」なんて言おうものなら、一発でハブかれますよ。
 ……と、これも、松尾芭蕉の話なんて持ち出すつもりなく書き出したんです。でも、綿密に計算し、既に初回の『がんばれ太宰くん』#14で芭蕉に言及した時から決定されていたと思い込んでしまうでしょ? テキトーでもこれくらいの芸当をやるのが作家です。因みに『走れメロス』——あれは本当に太宰さん、スゴくいい加減に書いたと思います。憧憬する芥川龍之介が『蜘蛛の糸』や『杜子春』のような話を子供雑誌の『赤い鳥』に寄稿していたので真似てみた可能性もあります。だって、「勇者は、ひどく赤面した。」ってラスト、ダサ過ぎる。絶対、わざとですし、ダサいのが解っているから(古伝説と、シルレルの詩から)なんてしょーもない言い訳を付け足した。
 閑話休題——。では次回は小説に於ける人物造形(キャラ設定)に就いてお話ししましょう。一同、礼——(と、起立と共にその生徒を拳骨で殴る山下真司)。

画像:頬杖ポーズで太宰治を模倣する著者





クラウドファンティングを立ち上げたい方はコチラから



その他、掲載中の記事は ↓コチラ↓ から

#Musician  #Fashion  #Photographer  #Novel  #Pictorial

#コンペ特集  #お役立ち情報  #スタッフブログ





Author Profile
嶽本野ばら
嶽本野ばら(たけもと・のばら)京都府出身。作家。
フリーペーパー「花形文化通信」編集者を経てその時に連載のエッセイ「それいぬ——正しい乙女になるために」を1998年に国書刊行会より上梓。
2000年に「ミシン」(小学館)で小説家デビュー。03年「エミリー」、04年「ロリヰタ。」が2年連続で三島由紀夫賞候補になる。
同年、「下妻物語」が映画化され話題に。最新作は2019年発売の「純潔」(新潮社)。
栗原茂美の新ブランド、Melody BasKetのストーリナビゲーターを務め、松本さちこ・絵/嶽本野ばら・文による「Book Melody BasKet」も発売。
新刊『お姫様と名建築』エスクナレッジ刊、絶賛発売中。
https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767828893
公式twitter 
@MILKPUNKSEX

公式ブログ
https://ameblo.jp/dantarian2000/

公式ウェブサイト 
https://www.novalaza.com
「NOVELS WARS」 #22 - 嶽本野ばら -
column
column
Staffblog

小説コンペの締め切りが迫ってまいりました。- BUNCA -

小説コンペ締め切り間近です!「ちょっと挑戦してみようかな」と思い立った時にその場で始められるのが小説の良いところ。この冬は新しいこと...
Staffblog

コンペ納め、コンペ初めは「小説」!- HIROMI KUROSAKI -

今年も一年ありがとうございました!オープンから半年、さまざまなコンペを開催してきましたが、今年最後と来年最初を「小説」コンペで飾るこ...

『BUNCA』はクリエイター/芸術家を応援する
WEBメディアサイトです。