「NOVELS WARS」 #12- 嶽本野ばら -

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人間はだれでも死ぬんだ。残された時間を小説に懸けろ。そこにお前の命の輝きがあるんだ。皆さまお待ちかね!嶽本野ばら先生の作家志望者へ向けた連載コラム第12回!

このエッセイは小説が書きたい作家志望者にアドバイスをする熱血文章である。日本文学界に於いて全く異端の僕が、僅か数分で、無名で荒廃している今の貴方を未来の芥川賞作家に仕立てる奇跡の技を余すところなく伝えるものである。

(オープニングテーマのイントロが鳴り、)

ノベルズウォーズ

(タイトルの後、盗んだラッコの上着を着たセロ弾きゴージュがポラーノの広場でクラムボンを殺したならば……)


第12回
比喩は助動詞を越えて


(——サブタイトルが入ります)

日本人にはゴッホ、宮沢賢治コンプレックスがある気がします。真の芸術家は生前、顧みられず死後に評価される、だから現在、売れている人はエセであるというような。
死後、忘れられても今、ヒット作が欲しいと呟けば、世俗な作家だと罵られましょう。しかし俺は今、認められていないが100年後、理解されると威張れば、負け惜しみとバカにされます。どちらにせよ書いて発表しないでおけば、誰の眼にも触れないので、出すだけ出しておきましょう。仮令、文学フリマの片隅にでも。宮沢賢治にせよ自費出版での発表はしておったのです。死ぬ前、弟の清六に原稿をムリクリ、何とかせよと押し付けておいたので、清六が頑張ってその作品を世に認めさせた(ゴッホも生前、弟のテオが援助し続けたので絵を描いていられた。つまり兄弟は大事ってこと)。
僕は自分が作家になるとは考えていませんでした。ライター時代、数名の作家にインタビューする機会があり、どの人も皆、悉く狂っておられたので、嗚呼、自分はここまで人格が破綻してないので無理だと諦めた。ある作家は家にお邪魔すると真っ暗な部屋から現れ「もう長年、灯りをつけたことがないのでスウィッチの場所が解らない……」と嘆くし、ある作家は質問に全くこたえてくれず、延々と「僕の書くものは教養小説ですから」とその説明に終始なさり、ほとほと困りました。取材の現場に来ない人も、いた。
宮沢賢治だってかなり変人です。吉本隆明氏に拠れば、賢治は生まれてこの方、体外に精子を出したことがないを自慢にしていたそう。本当なら夢精すらしていないということなので、ストイックよか性機能障害になります。でもその欠損があったを前提とするなら、賢治の作品を何故、誰も真似出来ないかの説明がやれる気がします。作家で食べられないので教師をしていた賢治は、自分の書いた芝居を嫌がる教え子達に強制的に演じさせ、親から文句を言われたりもしていた。
私はコミュ障だから小説家に向いている——と思っておられる方、まだ軽度だからなれていないのですよ。賢治の如く、あらゆる人に迷惑を掛けようが気付かぬくらい無邪気でないと、スゴい作品なんて書けやしません。人の創作なんて読むの苦痛じゃないですか。読む人が幸せになるに違いないとする傲慢な思い込みがないと発表は困難。僕は性描写が激しい作品であろうと、親や妹に読ませるのが恥ずかしくありません。僕も人格が破綻したので作家になってしまったのか? でも比較的マシな方だと思います。

その作者が傲慢か平凡かは、如実、文章に顕れます。「そういうものに私はなりたいと思う」は「そういうものに私はなりたい」より意思が弱いですから、「なれねーよ」とツッコまれた時、「だから、思うだけだって」弁解がやれますがインパクトに欠けます。誰に否定されようと「なりたければ」「そういうものになりたい」で構わないし、逃げ道は必要ありません。だってプロポーズで「君を幸せに出来ると思う」——曖昧な言葉は嫌じゃないですか。出来なくともそこは「君を幸せにする」でいいのです。
「鬼のような形相で追ってくる」より「鬼の形相で追ってくる」の方が簡潔、イメージしやすいですし、なんなら「鬼となり追ってくる」でもいい。その方が文学的です。
優れた比喩を用いることは文章を書く上で重要ですが、初心者が陥りがちなミスは「〜のよう」という推量の助動詞を多用し却って表現の起伏を平坦にしてしまうことです。龍は「鹿のような角を持ち、耳は牛のよう、蛇のような身体付きで爪は虎のよう」な生き物ですが、立て続けに「よう・よう」と続くと下手なラップみたいでげんなりします。省けるのであれば「〜のよう」をなくし「角は鹿、耳は牛、身体は蛇にして爪は虎」とする方が引き締まった文章になります。こうして最後に「〜のよう」をわざと用いますと「角は鹿、耳は牛、身体は蛇にして爪は虎。あたかも友松の水墨画から抜け出したような姿であった」というふう、イメージを一点集中で喚起させられますし、リズムも綺麗です。
日本語は究極、五・七・五の17音まで約められるのですから。賢治も俳句を作っていました。『狼星をうかゞふ菊の夜更かな』——下手ですねー。狼星と書いてシリウス、使ってみたかっただけの厨二な俳句です。
『シリ伺えば賢治の菊門』と付句して、妹に評価を聞いてみる。「お兄様、キクモンって何ですの?」「お尻の穴のことさ。ほら、見給え。菊の花に見えるだろ」「博識ですわ」「指を突っ込んでみなさい」——僕の人格は破綻しているのでしょうか? 否、比較的マシな方だと思います。







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Author Profile
嶽本野ばら
嶽本野ばら(たけもと・のばら)京都府出身。作家。
フリーペーパー「花形文化通信」編集者を経てその時に連載のエッセイ「それいぬ——正しい乙女になるために」を1998年に国書刊行会より上梓。
2000年に「ミシン」(小学館)で小説家デビュー。03年「エミリー」、04年「ロリヰタ。」が2年連続で三島由紀夫賞候補になる。
同年、「下妻物語」が映画化され話題に。最新作は2019年発売の「純潔」(新潮社)。
栗原茂美の新ブランド、Melody BasKetのストーリナビゲーターを務め、松本さちこ・絵/嶽本野ばら・文による「Book Melody BasKet」も発売。
新刊『お姫様と名建築』エスクナレッジ刊、絶賛発売中。
https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767828893
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