「NOVELS WARS」 #11- 嶽本野ばら -

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「文章はテストではなくプラモデル」。執筆をがんばっている貴方も、行き詰っている貴方も、きっと励まされたりヒントが得られたりすること間違いなし!NOVELS WARS 第11回!

このエッセイは小説が書きたい作家志望者にアドバイスをする熱血文章である。日本文学界に於いて全く異端の僕が、僅か数分で、無名で荒廃している今の貴方を未来の芥川賞作家に仕立てる奇跡の技を余すところなく伝えるものである。

(オープニングテーマのイントロが鳴り、)

ノベルズウォーズ

(タイトルの後、テレビで林先生がキラキラネームをつける親は頭が悪い、ヤンキーだと婉曲に罵倒していたが、それじゃ、息子に於菟とつけた森鴎外は?という疑問を抱えたならば……)


第11回
死と裸単騎と


(——サブタイトルが入ります)

執筆の方はどれくらいお進みになったでせう? 僕は長編小説を完成させたいのですが、このところ依頼されている違う原稿が思うように書けず、そちらにかかりきり。ツイッターすら更新やれぬ毎日ですよ。
500枚の長編にしろ僕は3ヶ月もあれば書けてしまうのですが、速度と枚数は余り関係がない。50枚の短編であっても3ヶ月かかります。つまり1日に何枚書けるかは関係ない。早い、遅いは1つの作品をどれくらいの期間で書けるかで決まります。
従い500枚の作品なら1日平均10枚は書きますし(全く書かない日もあるので)、50枚の作品なら、200字も進まない日もままあるということです。
400字詰め原稿用紙へ換算のフォーマットを作成を指示したのは、進んでいないように思う折、書いた枚数ではなく、作品の何パーセントまでが仕上がったかを知る為でもあります。今日は絶対5枚は書く——と決め達成しても、ただ文字を埋めているだけならその部分は緩慢となり作品全体に悪影響を及ぼします。後でそこを手直しするのは、屋根をつけた後に柱を入れ替えるような作業ですからとても困難、かつ効率がよくない。
「我輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生まれたとんと見当がつかぬ」にするか「我輩は猫である。どこで生まれたかとんと見当がつかぬし、名前すらない」にするか迷っているなら「何でも薄暗いじめじめとした所で——」と先を急がず、きっちり決定、解決してからにして下さい。
僕達は受験対策として答案は解る部分から埋めていく——と習いましたが、文章はテストではなくプラモデルです。順序に沿っていく過程で、ここのパーツの組み立てが上手くいかないからと後に残してしまえば、ヘボいプラモデルしか作れません。

森茉莉は晩年(といっても文筆に専念しだすのが遅かった)、約10年かけ自伝的大長編『甘い蜜の部屋』を書き上げました。
この人は『恋人たちの森』などヤオイのパイオニアな作品でも著名ですが、独特の文体を持ちます。「ギドウが弟の路易のをくすねてパウロに与えたもので、」というふう、日本人の筈なのに名前が西洋人っぽかったり、当て字を乱用して衒学ぶったり、決して読みやすくはない。というか、ぶっちゃけ文章は下手です。「若者はやはりそういう若者で、あった。」というよう意味不明な句読点の入れ方もよくなさる。だけど、その一文一文の作り方が丁寧なのですよね。
ですので、ババァ、いい加減にしろ、ド素人め、狙ってやってるだろうが思った程の効果が出てないんだよ、鴎外の娘という出自がなければ姥捨山に捨てたところだ……と毒づきつつ、何度も読み返してしまう。
ストーリーや文章を書く動機なぞテキトーでよろしいのですが、ひとつのセンテンス、センテンスとセンテンスのつながりのバランスというものは、頭が禿げるくらいに熟考しなければならない。文章から出ずる芳香はそこからしか生まれないのですから。
かつて国語の時間に先生は「この物語の主題は?」と問いました。それを読み取るが最も重要だと教えられました。だけど、書く立場になれば主題なんてさほど大事ではないのです。優れた作品には優れた主題がある——と思うは間違いで、つまらない主題でも優れた作品は書ける。『甘い蜜の部屋』なんてとどのつまり“私はあの偉大なる森鴎外の娘です!”と自慢しているだけの小説です。でもそれが森茉莉にとっては最大のアイデンティティ(=主題)なのです。
僕も小説を書くのは単に可愛いお洋服の描写がしたいだけです。それがくらだないと思うのなら読んで頂かなくて結構。
『麻雀放浪記』は阿佐田哲也の名作。ルールを全く知らない僕が夢中になるくらいに面白いし文章も上手い。でもこの作品って麻雀が趣味の色川武大が、別名を使い片手間に書いた作品なのですよね。彼は元々純文学の人で、色川武夫名義で書く時はちゃんとしたものを書かねばと、りきむ余り全然、いいものが書けなかった。『狂人日記』はとても好きな作品ですが、これもかなり苦労し何度も書き直しをしているらしい。
裸単騎や嶺上開花で上がる必要はなく凄腕もいらないんです。ゴミ手であれ必死でブラフをかければ虚もまた真実。ゴミ手に命を張る採算の合わぬ行為こそが相手を支配するは『アカギ』を読めば瞭然ですね。ただ丁寧に書けばいい。次の新人賞に間に合わねばその次の新人賞があります。貴方には森茉莉より時間があるでしょう。あ、でも1日、1行くらいは日々、書いて下さいね。怠けるとすぐに下手になるのが文章です。







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Author Profile
嶽本野ばら
嶽本野ばら(たけもと・のばら)京都府出身。作家。
フリーペーパー「花形文化通信」編集者を経てその時に連載のエッセイ「それいぬ——正しい乙女になるために」を1998年に国書刊行会より上梓。
2000年に「ミシン」(小学館)で小説家デビュー。03年「エミリー」、04年「ロリヰタ。」が2年連続で三島由紀夫賞候補になる。
同年、「下妻物語」が映画化され話題に。最新作は2019年発売の「純潔」(新潮社)。
栗原茂美の新ブランド、Melody BasKetのストーリナビゲーターを務め、松本さちこ・絵/嶽本野ばら・文による「Book Melody BasKet」も発売。
新刊『お姫様と名建築』エスクナレッジ刊、絶賛発売中。
https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767828893
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