このエッセイは小説が書きたい作家志望者にアドバイスをする熱血文章である。日本文学界に於いて全く異端の僕が、僅か数分で、無名で荒廃している今の貴方を未来の芥川賞作家に仕立てる奇跡の技を余すところなく伝えるものである。
(オープニングテーマのイントロが鳴り、)
ノベルズウォーズ
(タイトルの後、千円札を盗んだ三四郎のこゝろが明暗を分ちそれから夢十夜へと薤露行するなら……)
第9回
我輩ってなんだ>
(——サブタイトルが入ります)
自由軒の取材を終えましたら、早速、作品を書くことにしましょう。まだ何を書くか、プロットもたててない? 大丈夫です。書きながら考えればいいのです。万全の準備をしようとするから、一歩が踏み出せない。
とはいえ、基本的な用意はいります。しなければならないのは、ワープロソフトを開く。20字×20字という400字詰め原稿用紙へ換算可能のフォーマット作成です。
文学の世界は「3枚でお願いします」、400字詰めに換算しての遣り取りが基本です。原稿料も1枚5千円——というふう、400字が基準。だからとて縦書きの20字×20行をデフォルトしなければならない訳ではない。僕は横書きですしね、20字詰めにしますが、20行で改ページの書式は使いません。自分に合った設定で構やしません。
貴方が1行40字がやり良いならそれでよろしい。要は400字のボリュームを身体で覚えるのが肝心。僕くらいベテランになると、文字数を意識せずとも400字ピッタシで書けます。熟練の米屋が袋を担ぐだけで、正確にキロ数を言い当てるようなものです。
夏目漱石は自分用の原稿用紙を作っていました。『文士の生活』には「原稿用紙は十九字詰め十行の洋罫紙で輪郭は樋口五葉君に画いてもらったものを春陽堂に頼んで刷らせて居る」とあります。何故、19文字詰めか? 作った時、新聞連載を持っていてそれが1行19文字だったから。用いるようになってから漱石は、これで他の原稿も書いたらしい。使いにくそうですが、彼にとってはこのフォーマットがベストだったのでしょう。
実はここだけの話、フォーマットを固定すると文章が上手くなるのです。それは文字のフォント、級数、文字間隔を常に同じにして書くということでしょ。どこに句読点や改行を入れるが適切、漢字とカナの比重、バランスなどが視覚的——客観的に、捉える力が養われるのです。文体論に戻ってしまいますが、吉本ばななさんがスゴいのは書いている内容よか文体ですよ。パッとページをめくるだけで、あ、吉本ばななだ!と解る。読まなくても視覚的に彼女の文章であるのが瞭然となる。デビュー作『キッチン』も、今、ブログに載せている雑文も同様。
僕はegwordというワードプロセッサを使いますが、これ、2008年で終了しちゃったのですよ。wordに切り替えてからは文章が下手になりました。でも2017年に復活、以降、また文章が上手くなりました。
さて、自分のフォーマットを作り終えたなら、今度こそ本当に小説を書き出しますよ。
一行目——、書き出しはとても大事ですよぅ。小説の真価は冒頭の一文で決定しますので……。頭、抱えてしまいますか?
でも何故に苦悩する必要があるのです? 貴方は自由軒に取材に行き、既にネタを仕入れたではありませんか。それを書けばいいだけのことですよ。
このカレーは好みじゃないなと思ったかもしれませんし、カレーより店の前に置かれたご婦人の等身大パネルのインパクトに驚いたかもしれません。遠路はるばる赴きその日はステイ、大阪帝国ホテルを予約したけど着いたら帝国ホテルとは無関係のホテルだと知り愕然、どうりで安い、しかし風俗街のど真ん中やんけ、大阪ってえげつないと取材の記憶が吹っ飛んでしまったかもしれません。取材から得た情報や印象は人それぞれです。
貴方はその最も自分の中に大きく残った感想をそのまま、一行目に書き込めばよいだけです。実に簡単な作業です。
このネタは面白いから後にとっておこう。ハイライトに使おうと出し惜しみを企むからそこまでの道筋を思いつけず、筆が止まる。
サプライズなんていらない。肝心なセンテンスは一番最初に持ってくるべきなのです。
1行めに最重要の件を書けば、2行めからはそれを補足する文章を書かざるを得なくなる。カレーが舌に合わなかったことを書きたい場合、「自由軒に行くことにした」で始めれば、次の文章に様々な選択肢が生まれる。ですが「カレー、マズゥー!」を冒頭にしたなら「いや、これは誰もが知る名物の筈」というふう何故、その言葉が出たかの補足をせねばならないではありませんか。こうして説明を最後まで終えられたなら、作品は自ずと完成なのですよ。
夏目漱石だってね、きっととりあえず「吾輩は猫である」と書いてみたんです。そしたら次に名前をいわないとならないし……名前か……うーん。「名前はまだ無い」になり「どこで生まれたかとんと見当がつかぬ」に進むしかなかったんです。
小説は行き当たりばったりで良いのです。人に読ませる直前まで、いくらでも書き直せるのですし。
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