19歳の頃、専門学校の研修旅行で五日間ニューヨークに行くことになった。私にとっては初めての海外旅行であり、ワクワクや緊張が入り混じった思いを抱きながら飛行機に乗った。
旅行の前半では集団行動で姉妹校や現地の職場を見学したり、定番の観光地であるエンパイアステートビルに行くなどして、平和で安全に過ごした。
後半の自由行動では友達とヒップホップのカルチャーを感じるためにハーレムを散策したり、ジャズのライブを見たりなどをして過ごした。
事件は旅行の最終日の前日の夕方起こった。
友達が現地の知人に会いに行くということで、私は1人でタイムズスクエアのトイザらスに行き、当時小学生だった9歳離れた弟にお土産としてレゴのバケツを購入した。華やかな街の喧騒にも疲れてしまい、少し落ち着きのあるひとけのない通りに入り込んでしまったのが間違いだった。
明らかに背後に気配がある。さりげなく振り向いて確認すると、背の高い白人男性が2人、ピタリと私の後ろを着いてきている。私が早足になると、彼らも速度をあげる。私は走り出した。もちろんその男たちも。
直線に進んでいても追いつかれると判断した私は歩道を降りて車道を斜めに進んだ。だが途中で足がもつれて転けた。すぐに起き上がると私はまた方向を変えて走り出したが、転けたことにより2人組に距離を詰められていたので、すぐに壁に追い込まれてしまった。男の1人が腕をつかって私の首を壁に押し付けている間にもう1人の男が私のトイザらスの袋を力尽くで引っ張ってくる。これを取られてしまったら弟へのお土産がなくなってしまう。私は必死で抵抗すると同時に勝ち目のなさを感じた。彼らは「We’re fuckin police! relax!」と怒鳴っていた。
彼らが偽物の警察でも本物の警察でも私の荷物を奪おうとしてることには変わりなく、リラックスすることなど到底できないので、私は最後の手段に出た。腹の底から叫んだのだ。
すると道の脇に停められていたトラックからおじさんが懐中電灯でこちらを照らしながら「どうしたんだい?」といった感じで近づいてきた。すると、私を襲っていた2人組は急に態度を改め、「自分たちは警察で、こいつが怪しかったんでチェックしてただけですよ、あはは」と和やかに話だした。私はもう行っていいぞと言われたので、2人組の気が変わらないうちにそそくさとその場を離れ、逃げる途中に落とした自分の所持品を回収した。メガネは割れており、親に借りていたデジカメはバキバキに壊れていた。なんと説明すればいいことかと悩みながらも、とりあえず人の多いところまで走ることにした。だが、足にガタがきていた。両足のふくらはぎの筋肉が同時に釣り、私は地面にうつ伏せに倒れた。周りには誰もいない。見えるのは異国の街並みと暗い空だけだった。どれだけ歩いても家に辿り着くことはできない場所で無力に倒れているという絶望感がそこにはあった。
その後はなんとか親切な人にホテルまでの道を教えてもらい帰国することができたが、17年経った今でも当時のことは鮮明に覚えている。ジャンルは違うとはいえ、金縛りの時にみる幻覚など可愛いものである。やはり今現在、生きている人間が一番恐ろしい。皆さんも旅行の際はくれぐれもお気をつけて。
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