No Shortcuts Vol.8- 松下マサナオ -

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松下:No Shortcut vol.8ということで、今回のゲストはカメラマンの垂水佳菜さんです。宜しくお願いします。

垂水:宜しくお願いします!

【カメラマンになりたいとは元々思っていなくて、なってました】

(写真①)

松下:もう付き合いが何年になるかもわかんないね。8年とかだよね? たぶん。

垂水:わかんないけど、たぶん私が20か21とかだったと思う。そう思ったら10年なんだよ。

松下:やっば。なんだかんだお世話になってますね。

垂水:お互い老けて。
松下:たる(垂水)と最初会ったときなんてもう、一言で言ったら「この子カメラマンなんだ」って感じした。

垂水:(笑)。
松下:ちっちゃくてさ、バンドのメンバーよりオシャレだったし、なんか目立ってたから。

垂水:えへへ(笑)。

松下:んで話しかけて、昔サポートやってたKAGEROで何度か会ってからは現場でも会わなかったし、仕事でもそんなに会わなかったんだけど、なんかのときに俺が誘ったんだよね。

垂水:そう。クアトロ(SHIBUYA CLUB QUATTRO)だった。それは覚えてる。

松下:あ、そっかそっか! Yasei Collectiveのクアトロの、なんだっけね。たぶん自主企画かなんかだろうね、当時の。

垂水:それでYasei Collectiveは撮り始めましたよね。

松下:そうだね。そこから今に至るわけですよ、出会いとしては。ざっくりすると。

垂水:(笑)。そうですね(笑)。

松下:でね、いろいろ聞いていきたいんですけど、まずなんでカメラマンって仕事に就いたの?

垂水:カメラマンって仕事に就いたのは、全然カメラマンになりたいとは(元々)思っていなくて、なってました。

松下:え、気づいたら?

垂水:気づいたらなってました(笑)。

松下;へえ~。でもカメラ買ったりとかするまでのステップは?

垂水:(カメラを)買ったのは、高校生の頃からライブハウスでずっと働いてて、19か20のときに自分ではじめてカメラを買ったんですけど、なんか、毎日ライブハウスでいろんなバンドのライブを見てて、プロの人もいれば趣味の人もいるし、おじさんたちがただ趣味でやっていたりとか、あと学生もいたし、いろんな人たちがとりあえず毎日出てて、とにかく楽しそうだったんですよ。それにすごいイラっとして。

松下:(笑)。

垂水:(この人たちは)楽しいことあっていいな~と思って(笑)。

松下:イラっとしたんだ(笑)。

垂水:そう、イラっとしたの、すごく! 「毎日仕事とかで疲れてるけどこれが楽しいから」みたいなのがいいな~と思って、でも音楽をやる気には一切ならなくて、なんとなく何か趣味を見つけたかったんですよね。それがカメラだった。

松下:はじめて買ったカメラはなんだったの?

垂水:えーっとね、なんだったけな……。たぶんNikonのD5000あたりの初心者用キットみたいなのを買った。それが一番最初ではないかも。デジカメが一番最初です。

松下:なるほどね。

【誰にも営業の仕方も教わってないし、営業するものだっていうことも知らなかった】

(写真②)

松下:それでカメラをやり始めて、最初にお金もらって(カメラの仕事を)やり始めたのはいつだったの?

垂水:いつだったかな。でも、ライブハウスで働いてたから、必然的にバンドの写真を撮るようになって。私、作家さんとかじゃなくてジャーナリストになりたくてカメラ始めてるんですよ。どっちかっていうとジャーナリズムが好きで、報道写真とか大好きで。

松下:そうなの!?

垂水:そうそう。マグナム・フォトとか大好きで、それはずっと見てた。

松下:そうなんだ。全然知らなかった。

垂水:そう。バンドの写真を撮るのもそういうジャーナリズム要素があるじゃないですか。だからけっこう楽しいなって思ってて。それでいろんなバンドを撮って紹介してもらって。マサナオもそうで、それでまたマサナオがいろいろ紹介してくれるんで、それでどんどん広めてもらって。特に私は何もしてなくて、本当に(笑)。

松下:じゃあ特に自分で「こういうことやってます」ってがっつりプロモーション組んでっていうのはやってないの?

垂水:そう、営業をしたことがない。

松下:へえ。それはすごいラッキーだよね。

垂水:そう、すっごいラッキー。本当に。

松下:まあでも、逆にオールドスクールじゃない? 「こいつのダチですごい良いやつがいるんだよね」みたいなノリじゃん、70‘sとかってさ。

垂水:営業したことないって言ったらなんかすごい感じ悪いかもしれないんですけど、営業の仕方を知らなかったんですよね。

松下:いまだに敬語喋れねーからね。

垂水:(笑)。いま喋ってんじゃん、めっちゃ(笑)!!

松下:だから違和感なの。違和感しかない。

垂水:だってさ、専門学校行ってない、アシスタントも3回しかやってない、カメラマンの友達もいない。例えば専門学校行ってたらヘアメイクさん、スタイリストさんとかとみんなでサク撮りとかできるじゃん。そういうのでそれぞれの業界に行って、それでつながりができるじゃん。「あいつあそこで頑張ってるらしい」「じゃああいつ呼ぼうぜ」みたいになれるじゃん。でも(私は)そういうのが一切ないから、誰にも営業の仕方も教わってないし、営業するものだっていうことも知らなかった。

(写真③)

松下:逆にカメラマンでさ、「カメラの学校行ってました」って人、ライブのカメラマンだと正直あんまり見ないんだけど。

垂水:たぶん、学校よりはアシスタントをやって有名になった人が多いんじゃないかな。誰かに師事しました、みたいな。

松下:昨日もさ、ライブのカメラマンも最近やってる、もともとピエール中野さんの紹介で知り合って、凛として時雨のマネージャーをやってたんだけどいきなり転身してカメラマンやり始めた西槇さんっていう人がいて、その彼と山登りしたんだけど。彼もそうだし、なんか俺の周りの「いいな」って思うカメラマンって、あんまり「学校行ってました!」とか「何々さんに付いてて」みたいな人って意外に少なくって。みんなそれぞれのやり方があるんだよね。で、西槇さんは西槇さんで絶対的に過去のコレクションがあるからさ。バンドのマネージャーやってたわけだから、いろんな人と知り合いで。

垂水:うん、そうそう。

松下:それもあるし、たるだったら、やたらめったら友達が多いじゃない(笑)。いろんなところに。それがたまたまバンドマンだったら、バンドマンの友達にはバンドマンが多いからそこで繋がっていって……っていうの。たるの場合はスタートがそこなんだね。

垂水:うん、そうだね。

松下:だから、あれでしょ? いわゆる飲み会とかさ、遊び行ったりとか。

垂水:そう。それもだから営業なのかな。「垂水です」って言って(笑)。

松下:確かに。で、「あ、カメラやるんだ」みたいなね。

垂水:そうそう。でも私、放っておいたら家で一人でずっとゲームしてるタイプの人間だから、ほんとにみんなに誘われなきゃ行かないんですよ、現場とかも。

松下:自分で飲み会主催とかめったにしないよね、確かに。

垂水:あの、連絡するの大っ嫌いだから(笑)。なんか、一人で家に居るのが私にとって「休み」なんですよ。誰にも会いたくないし(笑)。家でずっと一人でいたいタイプだから。

松下:めちゃくちゃ根暗だよね。昔から思ってたけど。

垂水:そう、友達と旅行とかも正直あんまり好きじゃないし。でも旅行は好きなんですよ。どっかに行くのは好きなんだけど。でも免許もないから、1人だとどうせ途中でめんどくさくなる(笑)。だったら家に居て、映画でも見た方がいい(笑)。

松下:腐ってるよね、基本的に(笑)。

一同:(笑)。

垂水:ほんとにね、みんなが連れ出してくれたんだよね。奇跡だと思う(笑)。よくフットワーク軽いよねって言われるけどさ。

松下:まあそうだよね。そう思われがちだよね。たしかにけっこう誘ってるけど、誘われたことないな。

垂水:けしかけることはあるけどね。「キャンプしないの?」とか(笑)。

松下:主催させるんだよね(笑)。

垂水:そう(笑)。それはあるかも。

松下:確かに。変わらないね、そこはずっと。

垂水:うん。1人がずっと好きな子です。ゲームしたいです。

【いい感じの距離感があるから俺らきっとやれてた】

(写真④)

松下:たぶんたるってさ、20代前半とかからカメラ始めて、バンド撮り始めて、そうやって口コミで広めていって、それがだんだん自分の仕事になっていって、それを7、8年やってるわけじゃん。20代前半からやって30代になると、だんだん撮ってる被写体も(自分より)若い子が増えてったでしょ?

垂水:うん。もう、なんか気づいたら(被写体が)急にみんな年下になってて。

松下:ほんと俺もそうでさ。最初はサポートしてもみんな先輩とかだったのに、それが気付いたらいきなりメインのボーカルの子と10個違うとかでさ。まじ? みたいな。

垂水:なんだろね、間が何でいないんだろうね。同い年とかなかなかいないよね。

松下:たしかに。たるの世代はミュージシャンは多いんだけどね、意外に。

垂水:そうだね。マサナオも、最初はなんか「いま、最近松下マサナオっていうドラマーがいるんだよ」みたいに言われてた人だったのに、いつの間にかみんなの「先輩」になってるから(笑)。

松下:たしかにね。

垂水:気づいたらマサナオがもう既にみんなの「重鎮」っていう(笑)。

松下:まだまだ(笑)! まだ若手でいきたいから(笑)! でもたしかにね、割とたると会ってから(仕事の)進み具合が早くなってきたから。

垂水:うん。それに私もまだ一緒にいれるのがすごい嬉しいし。

松下:まあ、プライベート一緒に共有してないからってことなんだよ。

垂水:まあ、たしかに(笑)。

松下:(プライベートを)共有し始めると、きっとすげー仲悪くなる(笑)。

一同:(笑)。

松下:まあ割と(プライベートも)共有してる方だけどね。

垂水:いまめっちゃ行ってるけどね、家に(笑)。

松下:いま「HIDEOUT SESSIONS」っていう、俺が自宅にゲストを呼んで自分で録音も編集もぜーんぶやる企画があって。あの企画は別にもう利益全然考えてないから、もうポケットマネーで事務所とか通さず全部僕がやってるんだけど、カメラは自分じゃ撮れないから垂水にお願いしてて。だから最初から垂水のスケジュールありきで、垂水と前の月にスケジュール合わせて、だいたい月2日間くらい空きがあるからそこを押さえて、そのあとその日空いてるミュージシャンを探すの(笑)。俺の友達とかね。

垂水:そうだね(笑)。


松下:こいつとなんかやりたい、仕事したいと思ってたやつに「ねーねー来月なんだけど、ここ空いてる?」って聞くとみんな「急かよ!」って言うの(笑)。だって前々からそんな押さえらんないじゃんつって。ほんとうちに遊びに来てもらってついでに映像を撮ってるんだよみたいなやつだから、事務所が絡んでいるわけでもないし、すごいフレキシブルで、もう次の月のことを前の月に考えるって感じがすごいストレス溜まんなくていいんだよね。……(垂水は)最近もはやノックとかもしないもんね。

垂水:違うよ(笑)! ドラム叩いてるからピンポンしても聞こえないんだよ(笑)! で、カギも開いてるから(笑)。

松下:そうそうそう。カギ開けてあるんだよな(笑)。それでおーすって2階に来るからね。あれやるのは垂水と、Back Drop Bombのドラムの益男(有松益男)さんだけ(笑)。

垂水:だって(笑)。呼んでも電話しても出ないんだもん。

松下:俺たちそういう感じなんだよね。たぶんいい感じの距離感があるから俺らきっとやれてた。

【時間あったからやってみようかなって思って始めた】



松下:今コロナってほんとめんどくさいことになっちゃってさ、あればっかりはアマゾンの奥地とかでも感染してる人いるらしいから、もう世界中が同じレベルで、平等にみんな影響を食らってるわけじゃん? もちろん俺たちも大打撃を4、5月に食らって、俺なんかは4月の時点で年内のライブぜんぶ飛んで「あ、どうしよう」ってなって、そこからまた組み直して。それでいまだんだん変わってきてるじゃん。垂水ももちろんライブがないわけだからライブカメラマンとしての仕事もあの時期はなかったと思うんだけど、徐々に戻ってきてるでしょ?

垂水:うん。戻ってきてる。

松下:ね。で、その中でなにか決定的に変わったことって、垂水の場合はやっぱ動画だと思うんだよね。

垂水:あー、そうだね。

松下:スチールでやってたのが、ムービーをやるようになったじゃん。で、俺もよく知らないけどYasei Collectiveってバンドのギター人と、Yasei Collectiveってバンドの元々ローディーをやってたN A ï V Eくんってやつと一緒に組んで3人でやってるでしょ(笑)。

垂水:(笑)。はい(笑)。

松下:あのへんの話を聞きたい。どんなことやってるかっていうのを。

垂水:えっと、まずはコロナになって撮影が月に25本あったのが5本になって(笑)。

松下:5本あったのすごいね。物撮り? それは。

垂水:物撮りが多かったかな。全然表に出してなかったけど、HARIOとか韓国コスメとかけっこうちゃんとした仕事をやってて(笑)、そういうのは、逆にインスタを止めたくなかったんだと思うんですよね。この時期みんな見てるから。で、スタジオが開いてる限りは続けてて。

松下:あー、なるほどね。化粧品とか特にすごいCMやってたよね。こういうときだからこそメイクしようみたいな。

垂水:そうそう。だからお金的にはけっこう大丈夫だったけど時間にすごいゆとりができて、そのタイミングでSMTKっていう石若駿がやってるバンドがあるんですけど、6月にリリースがあって、そのために1月にレコーディングしてたんだけど、ティーザー映像作るから1月のレコーディング中に動画撮りに来てほしいって言われて。で、動画撮れるカメラは持ってたけど(これまで)動画は一切やってなかったんですよ。編集とかできなくて。そのときは撮るだけ撮って編集は違う人がやるからって言われたから「オッケー」って言って撮ってて。

松下:そうなんだ。

垂水:それが4月か5月くらいに急に「動画編集するはずだった人がめっちゃ忙しくなっちゃったから、垂水できる~?」って言われて(笑)。いや、できないよって言ったよね? みたいになったんですけど(笑)。でも時間あったからやってみようかなって思って始めて、それで基本的な動画編集を、Premiere Proの使い方をまず学んで。それでちょっと面白いなって思ったタイミングでYasei Collectiveのギターの拓郎(斎藤拓郎)と、前にそのローディーやってたN A ï V Eってやつと組んだの。
松下:N A ï V Eくんは「木(ki)」ってバンドやってて。すげーかっこいいバンドなんだよね。

垂水:そう。なんかあの二人なんか急に動画にはまりだして。まあ拓郎は元々ちょっとやってたよね。料理動画とか作ったりしてた(笑)。

松下:なんかね、拓郎は自分で動画料理を上げてんだけど、音楽にフリー素材を使ってて。「お前おかしくねーか」「音楽は作るだろ、せめて」ってみんなで言い始めて(笑)。そしたら拓郎は「それは別なんで」とか言って(笑)。最初はあいつの方が動画がっつりやり始めたよね。

垂水:そうそうそう。今も全然私より拓郎とかN A ï V Eのほうがいい機材持ってるし全然技術はあって。拓郎とN A ï V Eと一緒に動画撮るようになったのはなにがきっかけだったかな、私の友達のライブハウスが配信を始めるってなってカメラ回して欲しいって言われて、それで呼んだんだっけな、最初。ちょっと人数が欲しくて。なんかそのタイミングでermhoiちゃんって子が新曲出したって話を聞いて、私がMVを撮るイメージがすぐぱって浮かんだから、ちょっと遊びでやらない? みたいな感じで、そのときに(拓郎とN A ï V Eの)二人に手伝いに来てもらって。それで撮って、それが全部自分で撮って自分で編集した初めてのMVで、そしたらそれがなんか良かったみたい。周りにすごい褒めてもらって。

松下:これも仲間内がまたシェアしてね。俺らもそうだし、他のやつらもみんなシェアして、「いいじゃん」つって。たるって動画もやってるんだって。その当時は知らなかった人も多いから。

垂水:やってなかったからね(笑)。

松下:やっぱ動画始めたってのはでかいね、タイミング的に。

【「簡単なものだ」ってどうしても思われる】

(写真⑥)

松下:たるが最初に動画やってって言われたきっかけもさ、編集やってた人が忙しくてできなくなったからでしょ。「忙しくなった」って時点でわかるけどさ、コロナの影響でやっぱ動画編集系の仕事はめちゃくちゃ忙しくなってるから。だからやり始める人も多くて。

垂水:そうそう。
松下:でも俺、どういう気持ちなのかなって思うことがあって。元々スチールじゃなくてさ、もうほんとに動画だけやってたカメラマンもいっぱいいたわけじゃん。要するに素材撮りとかをやってた人たち。そこに急にもうYoutuberと同じくらいどんどん動画やる人が湧いて出てきたでしょ。俺もそんな風に思われてるのかもわかんないけど。ドラマーのくせにエンジニアリングとかいろいろやって……みたいな。曲とかも作り始めたりとかして。

垂水:たぶん拓郎とかも言われるだろうね。

松下:拓郎に関してはもう、俺らが一番言ってるもん(笑)。バンドなめてんのかっつって(笑)。冗談だけどね、もちろん。

垂水:そうそう。なんかこの時期にすごい思ってるのは、写真も動画もそうで、こないだもちょっと言われてさすがにイラっとしたけど、「俺でも撮れると思って始めた」って言われたことがあって。別に思うのは自由でいいし、私だって始めたきかっけはみんなそう、「私もこれできるかも」って思ってやるんだけど、なんかそれを直接言われたのがイラっとしたんだけど。それで初めてもらって全然いいんだけど、簡単だと思われてるんだなってすごい思っちゃって。

松下:うんうん。

垂水:「私、今日からドラムやる!」って言ってマサナオにすぐなれるわけないってことはみんなわかってるけど、やっぱカメラとかって誰でも手には出来るわけじゃないですか。まあiPhoneにも付いてるし。だから「簡単なものだ」ってどうしても思われるんだなーと思って。なんかそれを別に拓郎とかは正直ほんとに真剣にやってるし、すごく勉強してるし、それを見てるから私も全然いいし。プラス、やっぱりセンスある人が学んだりしてすごい作品がよくてもコネが無かったら正直なにも広がらない。拓郎とN A ï V Eは元々、今もミュージシャンでコネがあるから動画できるって情報がすぐ広まって、今カメラマンとしても仕事をもらえてる状態なのを、カメラマンたちが羨むのはちょっと違うと思うんですよ。それは彼らの実力だし。

松下:コネクションが元々あったっていうのがでかいよね。

垂水:そう。で、コネがあるのも実力なんで。

松下:そうだね。

垂水:だからそれは羨むことはちょっと違うかなーと思うんですけど。ただ「簡単にできる」って思われてるんだっていうのをすごいよくわかっちゃった。

松下:へー、そんなこと言われたんだ。

垂水:うん。ちょっとイラっとして(笑)。なんだろうな、私はカメラは技術じゃないことの方が多い気がしてるから、ちょっとね、悲しいなとは思いましたね。

松下:まあ独特な立ち位置ってのはあるよね、たるは。ぱっとした印象としてはなんか呼んだら来てくれそうなフレキシビリティがある感じするんだよね。ただ仕事もそうだと思っちゃってる、みんな。

垂水:うんうんうん。

松下:例えば俺とかさ、ほんとたるとの長い付き合いあるからこそ、もう夕飯食いに行こうよーくらいの感じで呼んでるけど、仕事じゃん、ある意味。仕事みたいなもんなんだけどそういうふうに気軽に呼べるのは付き合いがあるからで、みんながみんなそうじゃないわけだから。俺だってそういう感じで呼ばれて空いたら行くけど、でもそれでそういう扱いを受けたらもうこいつとはやりたくないなって思うしさ。

垂水:うん。

松下:難しいよね、お金じゃない問題みたいなところがやっぱあるよね。それはコロナになってかなり浮き彫りになった感もあると思うし。そこでやっぱり「無理だよ」って思っちゃう人と、逆に利用しようとして前に進もうとする人はすごい二極化したし。

垂水:そうそうそう。なんか、ちゃんと写真を見てくれる人と仕事をすることが増えるように最近はしてますね。なんか、断るって言ったら変ですけど、「これ私じゃなくてもいいよね?」っていうのはなるべくやらないで、マサナオとかCRCK/LCKSとか、私の写真を好きでいてくれる人と仕事をしたほうが私のほうも学べるんで。

松下:それはどんな職種でもそうだよね。

垂水:うん。だからなるべくそうしてます、今は。

【視点が低くてもかっこよく撮る】

(写真⑦)

松下:ライブ撮影を一個例に挙げたとして、本当に垂水の写真って独特だから、まず視点が他のカメラマンより低いでしょ。

垂水:(笑)。身長で(笑)?

松下:視点が低くてもかっこよく撮るっていうのを自分でいろいろ工夫してて、他の人と使ってるテクニックが違うんだよね。台座みたいなのを使うわけでもなく、いろんなところに移動して、いろんな角度から撮って。だから人によっては合わない人はもしかしたらいるかもわかんない。けっこう煽りが多いから。女の子とか特に、ここから煽られたくないとかいるかもわかんないし。

垂水:うん、そうそうそう。それもそう。

松下:ただ、やっぱりすげー躍動感あるんだよね。

垂水:(列の)最前に立っても怒られないんですよ(笑)。

松下:そうだね。たしかにね。

垂水:一番前に立ったときにぱって振り向いて、お客さんに「私邪魔ですか?」って言ったら「全然大丈夫です」って。

一同:(笑)。

松下:むしろ気づかなかった、みたいなね(笑)。

垂水:「あ、そうですか」って(笑)。

松下:毎回たるにライブ撮影を一本お願いすると、ばーっと見たときにメンバー3人のうち5枚ずつくらいこのまま次のアー写にしていいんじゃない? ってやつが必ずある。バチッて決まったやつが。

垂水:やったね!

松下:それがどのライブにも毎回あるから、こうアップデートしていって。道くん(中西道彦)なんて毎回垂水が撮った写真アー写に勝手に使ってるからね。

垂水:うん(笑)。嬉しいけどね。なんか誰かのアイコンになってるとけっこう嬉しい。

松下:それはやっぱり、そういう技術があるってことだし、動いてるものを撮るっていうのはすごいやっぱ難しいじゃん。だからそれが決まるっていうのはすごいし。だからぜったいいま動画を撮り始めたことは間違いなかった。すごいやっぱ過渡期みたいなところにコロナが来て完全に変わらなきゃいけなくなっちゃったし。

垂水:うん。そうだね。

松下:まあ基本的に俺はあんまり意識してないけど。家でしかできないんだったら俺やろーみたいな。これまで俺は周りにエンジニアも、カメラマンもそうだし、他の楽器やってるアーティストもほんとに日本のトップの人たちが居すぎるから、その人たちにもうずっと甘えてて、俺がなんかしなくてもほとんど事が進むような状況ができてたから、そのなかでバチ振ってただけだったんだけど、そういう人たちと会えないってなったときに、ほんとあの4~5月でなんとかしなきゃって思ってスタジオ作って、それのおかげで垂水とタッグ組んで、そういう新しい企画もやれるようになったから、すげーやっぱあれだよね、タイミングがいいんだよね。

垂水:タイミングはいいね。
(写真⑧)

松下:MEINLっていう俺がエンドースしてるドイツのシンバルメーカーがあって、毎年そのメーカーの海外で超人気がある「ドラマーズドラマー」みたいな人が日本に来てドラムクリニックをやるんだけど、それの第1回目にベニー・グレブっていう世界的に有名なドラムティーチャーみたいな人が来て、俺はそんな個人的な彼のファンとかじゃなかったんだけど、そのときに俺が契約して1年くらい経っていろいろ付き合いが濃くなってきたから、なんかオープニングアクトとして俺のソロをやってほしいって言われて。これはもう一昨年か。

垂水:そうだね、マサナオが出てたのはけっこう前じゃないかな。

松下:そのときに「カメラマンを探してる」って言われて垂水をすぐ紹介して、PAもyaseicollectiveのPAを紹介して。そしたらドラムの音も良いしカメラも良いし、「次も同じメンバーで」みたいな感じなって、次来たときは(垂水が)「オフィシャルカメラマンになってくれ」ぐらいのことをドイツ側から言われたりとかしてて(笑)。だから英語勉強しとけよ! とか言って(笑)。

垂水:一時、世界中のドラマーからすごいフォローされて(笑)。でも私全然MEINLしか撮ってないし、ドラムのこと1ミリもわかんないからと思って(笑)。

松下:そのときはクリス・コールマンっていうね、Beckのサポートとかやってるドラマーを(垂水が)撮ってて、そのときのオープニングアクトのドラマーがFUYUくんっていうEXILEとかスガシカオさんとかやってる超いいドラマーで、あれはあれですげーつながったしね。

垂水:うん、そうそう。

松下:俺がドラム・マガジンの表紙をやらせてもらったときも、普通ほとんど雑誌って絶対向こうのカメラマンで向こうの構図でって決まってんの。でも俺「それごめんなさい無理っす」って言って(別の)カメラマン入れて場所も俺が指定して構図も全部俺が「こんな感じで」って言って、俺が大好きな服屋さんでThreeRobbersっていう浅草にある店があるんだけど、そこのお店の中で垂水を呼んで撮ってもらって。

垂水:ね。

松下:めちゃくちゃオシャレ。今見てもあれ、やっぱすげーかっこいい。

垂水:かっこいいよね。ドラム、ちょっとしか映ってないけど(笑)。端っこにポンって(笑)。

松下:あれさすがにね、……言われた(笑)。

一同:(笑)。

松下:さすがにちょっとね。移籍第一弾だったしね、たぶんね(笑)。

垂水:これ、ドラム入れた方がいいですかって言っちゃった(笑)。

【何が自分に合っているのか、もうちょっと知りたい】



松下:てなわけで、いろいろ聞いてきたけど、今後なんかたるの中で、「こんなことしてきたいんだけどな」みたいな展望とか野望的なものはある?

垂水:私、ああいうふうになりたいとか何になりたいとかはあんまりないけど、したいことはいっぱいあって。行きたいところとか。で、いまフィルムカメラをここ2年3年くらい始めたんですよ。コロナの時期にスキャンを買ったらよけい楽しくなって(笑)、だからちょっとそこにすごい時間をかけたくて。ポートレートなり、いろいろ。なんか「アート」をしてるつもりは全くないけど、けっこういろいろサク撮りをこの2年くらいぽんぽんやってきたんで、ちょっとそれにすごい力入れたくて。

松下:そうなんだ。

垂水:もうちょっと自分が本当にやりたかったことを逆に見つけたいのかな。なんか、けっこう「言われてきたことをやってきた」っていうのがあったんで、何も知らなかったから。こういう写真が欲しいんですけどって言われて、やったことないからやってみて、やりたくなかったらもうやらないみたいなスタンスでやってたけど、いっぱい学んできて、ちょっとずつ私の色味が出来て、私がやりたいこともやりたくないことも増えて、だからいま私の写真を好きって言ってくれる人といっぱい仕事したい。もうちょっと自分のどれだけカメラに向き合えるかを見極めたい。だから1年くらい1人でいたい(笑)。どっか行きたい(笑)。

松下:なるほどね。

垂水:もうちょっと向き合いたいかな。わりとコロナの休んでたときにすごい向き合えたんですよね。まあゲームはしてたけど(笑)。自分の写真のことをすごい考える時間ができて、私たぶんこれはもうやりたくないんだろうなとか、こういうことをやってみたいなとか、単純に時間ができたから調べる時間もできたんですよね。いろんな人の写真も見れたし、フィルムのことも勉強できたし。こういうレンズがあるんだなーとか、こういうフィルムがあるんだなーとか。欲しい機材とかも出てきて。そういうこともできたから、やりたいことが増えたのもありますけど、ちょっと何が自分に合ってるのかもうちょっと知りたいなっていうところです、いま。私は。

松下:うん。やっぱ、すげー大きく変わったなって聞いてて思うのは、今までは流れに乗ってラッキーもあれば、タイミングあって「じゃあ行くよー」みたいなのが(仕事に)繋がったりとかしてたけど、いま(コロナで)時間ができて、まあ年齢も絶対あるとおもうけどね。

垂水:まあねー。

松下:やっぱいろいろ経てきて、やりたいことをたぶん探し始めるんだろうね。そんで自分からカメラにさ、言い方悪いかもしれないけどちゃんと固執しようとしてるじゃん。それってけっこう大きい変化でしょ?

垂水:うん。自分の中で。

松下:(垂水は)決めたくない人じゃん。「私これやります」とかってさ。俺が出会った頃は特にそうだったし。でもなんかいまこう、それを自分でもう1回見つけようとしてるなっていうのが、すげー聞いてて面白いなって思った。今までの垂水にない感じで。

垂水:大人になったでしょ?(にやり)

松下:それたぶんね、20代前半で普通来るものだから(笑)。

垂水:(笑)。やっと来た(笑)。

松下:来てよかったね(笑)。

垂水:来てよかった。

松下:来なかったらどうしようかと思うからね(笑)。ずっと流れでってわけにもいかないから。でもそれでいけちゃう人生もあるわけだからね。そういう人もいるから。

垂水:まあね。「こういうのが欲しいです」って言われてやるのはすーごい勉強になったんで。あ、こういう写真があるんだってまず思ったし(笑)、こういう写真を撮るにはどうしたらいいんだ、どういうライティングなんだろうとかめっちゃいろいろ考えるっていうのが一番勉強になった。だからそういうミッションをもう会うことはないであろう仕事をしてきた人たちがいっぱいくれて、ありがとうございましたとは思ってます。

松下:1個も無駄じゃないよね。

垂水:全然無駄じゃない!

松下:今思えば、この人ほんとやだったなーとか、あいつまじムカついたなーって思う話いっぱいあるけど、それがすごい力になってるし、それのおかげで方向転換できてるから、いまめちゃくちゃ感謝してるよ、俺も。そういうのが今のパワーになってるし。ずっと優しくてサポートしてくれる人が俺は好きだけどね。人間としては。

垂水:まあね(笑)。安心だからね。

松下:でもうやっぱ、大事だよね。自分に合わなかったこともやってきたっていう、ラッキーだけじゃないっていうことはね。さて、今回も面白い話いっぱい聞けました。ありがとうございました!

垂水:ありがとうございました!

「あとがき」

最初にBUNCAスタッフの二人とこの企画をやりましょー!ってなったときに、企画の趣旨として、様々なジャンルの最前線で働くプロフェッショナルに話を聞いて、それを下の世代に伝えられたらいいねっ!ってのがあって。

垂水の存在はとてもその趣旨にフィットしてる気がするんです。

カメラマンになるまでの経緯を聞くとわかるように、やはり彼女にとってもタイミングやラックが成功の重要な要素になってる。

何をチョイスするかは本当に自分次第。

それが正解かそうでないかわかるのがずいぶん先になることも多い。

勘を信じつつ、バランス感を大切にしてる垂水の生き方が俺は好きです。

彼女の言葉が誰かの”タイミング”になったらいいなと思います。


対談者:Kana Tarumi
話し手:松下マサナオ
撮影/編集:BUNCA


対談者PROFILE
Photographer
Kana Tarumi
20歳の頃に写真を始め、当時働いていたライブハウスでライブ写真を撮るようになる。

Yasei Collective、CRCK/LCKS、君島大空などバンドのライブ写真やアーティスト写真を手がける一方、ポートレート、ファッション、インテリアブランドなど様々なジャンルの撮影を担当。

並行して旅先や日常の日々を収めた作品創作を行う。

HP: https://kanatarumi.wixsite.com/tarumi Instagram: https://www.instagram.com/kanatarumi
▼ Favorite Movie
Short Term 12

▼ Favorite Art
studio arhoj

▼ Favorite Music
Ben Khan

▼ Favorite Fashion
used clothes

▼ Favorite Book
---

▼ Favorite Photo
Annie Leibovitz
Robert Capa


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Author Profile
松下マサナオ
長野県飯田市出身。
17歳でドラムを始め、大学卒業後に渡米し、Ralph Humphrey、Joe Porcaro 等に師事。
現地の優れたミュージシャン達と演奏を重ねながら、2年間武者修行をする。
帰国後はストレートジャズからパンクロックまで様々なジャンルで活動。

2009年に自身のバンド、Yasei Collective を結成。

2012年に FUJI ROCKFESTIVAL 出演、2013年にはグラミー賞にノミネートされた US ジャムバンド、Kneebody との Wリリース・ライヴを実現。

2014年には日本を代表するドラマー、村上"PONTA"秀一氏率いる NEW PONTA BOX と異色のツインドラムセッションを行う。また同年、凛として時雨のドラマーであるピエール中野氏のソロプロジェクト『Chaotic VibesOrchestra』への参加。

2017年には、デビッド・ボウイ最後のドラマー、マーク・ジュリアナとツインドラムでの共演、ベニー・グレブやブレインフィーダーのルイス・コール等の来日公演でゲストアクトを務めるなど、海外との交流も深い。

2018年、NYレコーディングによるヤセイコレクティブ5枚目のフルアルバム"statSment"をリリース。同年9月にはリズム&ドラム・マガジン9月号の表紙を飾る。

2020年、豪華ゲストをフィーチャーしたヤセイ結成10周年のデジタルリリースシングル絶賛配信中。
Yasei Collective,Gentle Forest Jazz Band, HH&MM(日向秀和×松下マサナオ)
  二階堂和美、ハナレグミ、藤原さくら、東京03、バナナマン、cero、mabanua、kid fresino、前野健太、NakamuraEmi、日向秀和(ストレイテナー)、Toku 他多数
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今年も一年ありがとうございました!オープンから半年、さまざまなコンペを開催してきましたが、今年最後と来年最初を「小説」コンペで飾るこ...

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