No Shortcuts Vol,7- 松下マサナオ -

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Yasei Collectiveを始め、日本の音楽業界に無くてはならないドラマーのお一人である松下マサナオさんが、BUNCAで対談形式の連載中! 第7回目のゲストはなんと……ラーメン屋さん!? しかし、とってもクリエイティブなお2人なのです。詳しくは対談をご覧ください!

松下:No Shortcuts Vol.7、今回のゲストは山梨甲府ラーメン由のお二人に今日はいろいろお話を聞きたいと思います。宜しくお願いします!

由貴子:はい。宜しくお願いします。

【芸術のことがほんとに好きで、好きでずっと描いてた】

松下:元々、甲府在住のピアニストの古谷淳さんに飯田(長野県)出身のラーメン屋でおいしいところがあるよって言われて、俺も飯田出身だから、「飯田かあ……なんか、すかしてんだろうな」とか思ったんだけど(笑)、

由貴子:あはは!(笑)

松下:あの人(古谷淳)めちゃくちゃグルメじゃん。なのに1日3回食えるからって最初言われたの。うっそやん! と思って行ったらまじでうまくて、しかも無化調でやってて。食材全部こだわっていてっていうのはいろんなラーメン屋さんでやってるけど、すげー独特だったの。いろんなラーメン食べたけど。「おうちでも食べたいラーメン」みたいな感じ。まあ家では食えないからここに来るんだけど。



松下:こういうタイミングでインタビューできて俺もめちゃくちゃ嬉しいです。一応、店主さんは由貴子さんなんですよね?

由貴子:そう、事業主としてはね。

松下:でもお二人でやってるっていう。ラーメン屋、由をまず飯田で始めたきっかけは何だったんですか?

由貴子:あのー、高校で剣道を教えてたんだけど、それを何年かやってたら先が見えなくて。最初はそれでよかったんだけど、自分の人生を考えたときになんかこう、ずーっと勤めで終わるっていうのがなんかちょっとピンとこなくなって。で、私の母方の兄弟がみんな料理人が多くて。

松下:へー! あ、それは初耳。

由貴子:そう。で、そこから枝分かれして料亭やってる叔父とかもいて。料理人が結構多かったから、もしかして自分が勤め人じゃないとしたら、自分にやれることって何かなって思ったら、うーん、やっぱり食べ物関係だなと思って。

松下:うーん。

由貴子:で、つてでいけばもっともっとものすごく近道で店出せたんだけど、とりあえずもう全然知らないところに入って住み込みでやろうと思って、中国人がやってる中華料理屋さんで、コックが30人くらいいて。

松下:へえー!

由貴子:で、女は私一人だったんだけど、だけどまあ、それも初めてだけど店を持ってやりたいなと思っていたから頑張ろうと思って。すっごい大変だったんだけど。やっぱり周りが男だからね。30人くらい男で1人だけ女だから、もう女と思われないようにしなきゃいけないし。とにかくそれを対等にやっていかなきゃいけなかったからすごく大変だったんだけど。で、それでやりながら、あたしなんか1つ決めるとどんどん決めてどんどん先に行くタイプだから、修業を決めたときにも、既に設計士さんとかそういう人たちに頼んで、もう店の形をだんだん作ってもらうようにして。

松下:へえー。

由貴子:だから修業しながらもう3年くらいの間に、店もちゃんと農地から宅地に変えたりとかして。

松下:せっかちですねえ(笑)。相変わらず、その頃から(笑)。



由貴子:そうそうそうそう。その頃から(笑)。それで、由っていう名前もあんまり店の名前に重きを置いてなくって、ただ店がやれればいいっていうか。自分の味を決めてやれればいいと思ってたから。地鎮祭のときにはじめて、店の名前を必要だって神主さんに言われて、そのとき初めて、5つくらいある候補の中から「じゃあこれで」っていうふうに決めたんですね。で、由なの。

松下:自分の名前の頭文字でしょ?

由貴子:そうそう。ただ、最終的には名前をみるコンサルタントの人が左右対称五画の字がすごくいいって言っていて、店としては最高によかったですよって、後付けで言われたの。

松下:へえ~、そうなんだ。

由貴子:そう。それで、一応そんなわけでやり始めて、一応2千万くらい借金して、高校に勤めてた時のお金が500万くらいは自分の元手にあったから、運転資金に500万くらいで2千万借りてやり始めて。んで、昼も夜ももうずっとやってたからすっごい大変だったんだけど、15年くらいやったんだよね。借金が結構あったんだけど、お店が奇跡的にうまくいってすごいお客さんが入って。

松下:人気店だったもんね。飯田店当時も。

由貴子:うん。それで、店をやりながらイラストレーターの仕事を1回、本の挿絵を描いたことがあって。

松下:へえー!

由貴子:絵はすごく好きだったんだけど、うちって、芸術がタブーなのね。

松下:あ、家庭的にってこと?

由貴子:そうそう。中学生の時に挿絵画家をやりたかったんだけど、なんか(家が)ダメみたいな感じだったから、芸術のことほんと好きで、好きでずっと描いてたけど、もうそれができなかったから、店が軌道に乗って借金の目途もついたころに、なんか自分、他のこともっとやりたいなって思っちゃったの。で、借金はもう貯金でもう前倒しで返しちゃって、店はもうそのままにして(たたんで)、絵の先生に習いながら、東京にイラストレーターの学校があったから、そこに通いたいなと思って。

【反発しあうけど、認めてたし尊敬もしていた】



由貴子:それで、……実はあの、あたしバンドとかやってたの。

松下:いや、知ってますよ。それはもう(笑)。やってたって話は聞いてました。

由貴子:え(笑)! 恥ずかしかったから言えなかったんだけど(笑)。ちょうどその、どうせだったら店もやめたし、次の好きなことやりたいと思ったから、音楽もやりたいし、絵も勉強したいと思って。音楽はジャズとかなんかいいなーと思って、ジャズのボーカルの先生に付いて、何年くらいやったかな、結構やったな。

藤巻:うーん、3年くらい?

由貴子:うん、そうだね。そんときにホテルの、こっちにホテルとかあって、ホテルの仕事とかやってたの。

松下:歌う仕事ってことですよね?

由貴子:そう、歌う仕事。藤巻がギターで、あとはピアノとベースか。

松下:いわゆるラウンジバンド的なことか。

藤巻:たまたまそのときに、友人の紹介でホテルの仕事をやらないかって言われて、そんときに始めて(由貴子と)知り合って。

松下:へえー。習うっていうの、俺、意外! 全部さ、(由貴子さんは)習わなさそうじゃん。何言ってんのあんた? とか言って先生に怒りそうじゃん(笑)。

一同:(笑)。

由貴子:やっぱさ、基礎っていうのは必要じゃん。で、私いっつも先生からセンスいいって言われてたけど、センスってさ、ほんの何%とかじゃん。で、それを伸ばす圧倒的なものっていうのはさ、基礎と、努力じゃん!

松下:そうそう。そうなのよ。それはもう全部一緒だからね。

由貴子:だからもう死に物狂いでやったの。絵も、歌も! ただ歌やり始めたら仕事が結構バンバン来て、1か月でもう13万円くらいとか。

松下:それは何年くらい?

藤巻:店をやる前で、店が今年で7年目だから、その前だよね。そのマイナス2年とか。

松下:じゃあもう、約10年前。意外に最近といえば最近ですね。

藤巻:(学校に)通ってるときにそのボーカルの先生紹介してもらって、じゃあやったら? みたいな。

松下:すごいね。だから、勘がいいんだよね、きっと。

由貴子:どうかわかんないけど、それでね、初めて(藤巻に)会って仕事したときにすごーいけちゃんけちゃんに言われたの! もーのすごい言われたの! ひどーく。

藤巻:(笑)。

由貴子:ホントこの人大っ嫌い! とか思ってたんだけど、言われたことは全くその通りだったからきっとムカついたんだろうね、私は。

松下:うんうん。悔しかったんですね。

由貴子:そう。そしたら剣道6段とか言われて。剣道やってて音楽やってる人なんて私絶対いないなーと思ってたのにいたから、妙に気になってて。なんか反発しあうけど認めてたし尊敬もしてたから、それで結婚したんだよね、なんだかんだね。

松下:え、それは(甲府の)由やる前にもう結婚してたんですか?

由貴子:うん、そうそうそう。で結婚してからはもう2人で音楽の仕事してた。こっち(甲府)で。

【人を喜ばせるっていうのはすごい苦痛になるし、やっぱさ、それって才能ないとダメなんだよ。】



藤巻:ホテルの仕事とかいっぱいしてた。すごい時代だった。

松下:時代的にもね、すごい時代ですよね。2000年代頭から2010年くらいまで。俺も結構ジャズの仕事やってたもん。

由貴子:そうでしょう? めっちゃいい頃で、めっちゃ儲かった。

松下:その、ジャズがって言い方するわけじゃないですけど、そういういわゆるレストラン営業的な、いわゆる昔の営業スタイルの音楽が日本でもまだあの頃はいまよりはあったんですよね。今はもうほんっとに少ない。若手のミュージシャンとかって、僕の印象だけど、そういうとこを経て成長していくのもあるなって。

由貴子:結構オリジナルの曲も作ってたんだよ、あたし。だけど、日本の曲とか作ってて、オリジナルは結構気に入ってたけど、なんていうのかな、音楽ってもう楽しむものだなって。自分にとっては、人を喜ばせるっていうのはすごい苦痛になるし、やっぱさ、それって才能ないとダメなんだよ。

松下:ていうかもう、諦めなきゃいけないことって絶対出てくるから。

由貴子:そう! それで、あたしはぜったい無理だなって。なんていうのかな、結構ね、具合悪くなったの。完璧を求めようとするんだよね。それで、ライブとか演奏会が近づいてくると具合が悪くなるわけよ。そんでその当日、もう最強にダメなわけよ。でも、ステージに立つと治るのよね。で、ステージ降りるともう完全に治るんだけど、それまでがお腹痛くなっちゃったりとか。

松下:フィジカルにもガタがでてくるっていうことですよね。それね、ほとんどのアーティストがそうだと思う。

由貴子:そうなの!?

松下:僕もずーっとそうだったし。現場が大きくなればなるほど、2015年くらいまでは本当にきつかった。「もう嫌だ、帰りたい」とか思ってたけど、最近もう全然ないし。早くやりたい、もう逆に。それでなんかある程度人に任せられるようになったんですよ。全て俺がチェックしたかった、当時は。特にYasei Collectiveとか。それをやめて、人に任すようになった。信頼して。

藤巻:わかる! わかる~。やったらナーバスになっちゃうからさー。細かいところまで。

由貴子:「何言ってるの!? そんなこと言ってちゃダメじゃん!」とか「プロはみんなそうなんだよ!」とか言われたけど、やっぱりあたしには向いてないなって。それで芸術っていうか、ご飯も食べずに家にこもって絵を描いたり、ものを作る事の方が絶対に自分に合ってるってことに気が付いて。

松下:なるほどね。それで音楽からは1回距離を置いたんですか。

由貴子:そうそうそう。で、ずっと絵はやってて。

藤巻:(由貴子は)講談社のスクールに入っていたんだけど、けっこういろいろ作品をコンペに出して賞を取ってて、紹介するからって言われて、そしたらなんか嫌だって言うから(笑)。

由貴子:4コマ漫画とかね。だけどさー、それってまたさ、意外とだるい話なんだよ(笑)! コマが、カットが短くなればなるほど起承転結のルールの中で死に物狂いでネタを探さなきゃならないじゃん。それも絶対歌とおんなじで!



松下:そうだね。それをやるために生きることになっちゃうからね。

由貴子:そう! そう! だからもうそれは捨てて、それと、もう1つは絵本のオーディションみたいなのがあって、それに受かって、絵本を作りましょうということで、編集者がついたんだけでど、本当にちょっと、あともうちょっとだったよね! もう出版社に出すっていうところで、7回ネタ変えたの! 私が作りたいものを、登場人物は一緒なんだけどネタを変えてストーリーを変えて、8回目はもう1回作ってこいって言われて。8回目っていうと私の今まで持っていたイメージとは全く違うものになっちゃうから、それもなんか嫌だなって思って。

松下:面白いね。やっぱりこう、音楽でもなんでもそうなんだけど、そのあと由ができるわけじゃん。由でやってるときは、由貴子さんも藤巻さんもやっぱ自分の「あたしはこれがやりたい」「あたしはこれが作りたい」っていうものが100%出せる。もちろんそれは、入荷とか天候とかの状況で野菜はもっとこうのがいいみたいなのが月々あると思うけど、基本自分の要するに顔として出せるものとして(無化調を)やってるわけじゃん。しかもそれで自分らも余裕もって生活していける状況がとても健康的だなと思って。

由貴子:うんうん。

松下:アーティストの場合は、俺もそうなんだけど、自分のバンドやソロ活動っていうのがあって、それでまあまあ普通に食っていけるくらいのあれはあるけど、でもすげーゆとりがあるかっていうと難しいから、サポート活動とかもしていて。そういうのが俺にとっては健康的なんですよね。さっきの8回編集部にこう言われてこうしなさいああしなさいって言われて、最終的に私こんな作品描いたっけな? みたいなのと同じで、レーベル所属して、事務所所属してうんぬんっていうのがあると全部フィルターがかかっていって、最後すっごいどっかで聞いたことのある曲になっちゃう。そういう、ここはもうちょっとわかりやすくどうのとか、ヤセイコレクティブに関してはもうまじでこれやる意味ねーなと思っちゃって。

由貴子:そう! 売れることにこだわるからやっぱりそういうことになっちゃうんだよね。わかるわかる。

松下:やっぱりアートとしてやりたいと思っていたし、ジャズ大好きだからよけいそうなんだけど、結局最終的には俺らもここ(ヤセイコレクティブ)はやりたいことしかやらないバンドにしようって言って。誰かに言われてこうとかじゃなくて、俺ら3人がやりたいことをやろうって決めてやってたから、逆に外の仕事はすげーたくさんあって、皆それぞれ活躍してて、それがすごく健康的だと思うし、バンドだけでドーンって売れるっていうのは本当に理想的だと思うけど、やっぱりどっかしらでストレス抱えててことになってくると思うんで。由をはじめたことによってきっとそこらへんが由貴子さんも藤巻さんもたぶん一本通ったんだろうね。

由貴子:そうそう。そうなんだと思う。

松下:そこでアーティスト活動を辞めなかったっていうのが俺はすごくヘルシーなんだと思う。それを見てる旦那さんとしてもいいじゃん、そのほうが。病んでいくのを見るよりは、ラーメン屋をやって外で活動しているっていうのがあったほうが。

【自分たちの守りたいもの、やりたいことっていうのはやったうえでライフスタイルを過ごしたい】



松下:由を始めたときのスタンスと、今変わっていることってありますか?

由貴子:あの、ここって無化調で、麺も打ってるじゃん。普通のラーメン屋さんと比べたら(由のラーメンは)絶対値段高いんだよね、この辺で比べたら。そしたらそれが受け入れられるかどうかわかんないから、とにかく必死でやってた。でも今は理解してくれるお客さんもいてくれて、そのおかげでやれてるから、ものすごーい頑張るっていうことはないよね。わりと自分のペースで。

藤巻:やっと自分たちのペースっていうか。

松下:なるほど。昼だけでしたっけ、今は?

藤巻:そうそう。はじめはね、土日は夜もやってたんだけど。

松下:そうだよね。そのイメージが俺もあるから。昼は11時から14時まで?

藤巻:そう。で、夜は17時から20時までってスタンスでやってたんだけど、なんかね、僕らもだんだん年とるじゃん、そうするとやっぱりお互いに無理してメディアに取り上げられて取材を受けるところまでやるとものすごい大変なんだよね、もう。ほんで、あるとき「もうやめようか」って。

由貴子:テレビが入ると大変なことになっちゃうんだよね! もうしっちゃかめっちゃかになって!

藤巻:そう、だから(テレビの取材は)なるべくお断りして、自分たちのスタンスでやらないと。

松下:そうね。さっき言ってた8回訂正するとか、ショーを作り上げていくために体調悪くなっていったりするのと同じ感じになってくるからね。

由貴子・藤巻:そう!!

藤巻:だからやっぱり、自分たちの守りたいもの、やりたいことっていうのはやったうえでライフスタイルを過ごしたいというか。

松下:それがラーメン屋で、自分たちのやりたい味でできてるっていうのは、やっぱ、ほんとに半分は奇跡的なものがあると思うんすよ。

由貴子:ある!!

松下:飯田で続けたたらもっと形が変わっていたと思うし、2人は出会ってもないだろうし。甲府になかったら少なくとも俺は来ていないし。

【由のラーメンは、“リセット”】



由貴子:あの頃の店(飯田の由)は膨大な借金を返さなきゃいけなかったから、ラーメンにかけれるお金っていうのも決まっていたわけで、材料にこだわれなかったの。でもこっち(甲府の由)は無借金で作れたから、材料も無化調でこだわってやって、麺も打って。本当は前やっていたときもそれが一番理想的だってわかってはいたけどできなかったから、どうせならそれをやろうと。やってみたらすごい大変だったけどね! めっちゃ大変! でも、ラーメンは旨味を感じましたでしょ?

松下:いや、感じる感じる。由のラーメンってすごい面白くって、俺が最初食べたときから変わらないことの1つは、食べていくとどんどん味が濃くなるの。あれって、俺なりの解釈なんだけど、由のラーメンってけっこうラーメンの“リセットしにきてる”っていう感じなの。ほとんどのラーメン屋が“一口目”なんだよね、一番「うまっ!」ってなるの。なんでかっていうと、化調もあるし、あとは塩分も高いし。

由貴子:うんうん。

松下:これ、ラーメンじゃなくても音楽でもなんでもそうなんだけど、ドーンと一発目でかましときゃあとりあえずそれはいいんですよ。でもそっから一番フルテンで始まるから勢いが落ちていくのは当たり前で。由の場合、たぶんはじめて食べた人は一口目「あれ?味薄くない?」ってなると思う。でも食べ進めていって、最後の最後までどんどんベストが更新されるの。だから俺はぜったい麺も硬めにしないし、最後の一口までちゃんと飽きないで食べれるの。

由貴子:そう、計算してやってる。

松下:してるっしょ? だから“リセット”だと思っているの、俺は。

藤巻:やっぱり素材の味ってね、俺もガキの頃のラーメンって化調がなかったから、近所のラーメン屋さんでもめっちゃうまかったんだよね。魚の出汁とってくれて。ああいうのがもう今ないじゃん。

松下:俺の中ではね、逆に小さい頃食べたラーメンっていうのは化調のラーメン。全部。俺の小さい頃はほとんどそうよ。だってもうラーメン屋さんっていったら醤油のスープに必ず(化調を)パサッて入れてたもん。ガキでもわかった、それは。ほとんどのラーメン屋がそうだったし、僕らが小さい頃は無化調なんてほとんどないと思いますよ。飯田に関しては。

藤巻:それに慣れちゃってるんだね。だから、「最初の一口がラーメンのうまさを決める!」って人が多いけど、本当はそうじゃないんだよね(笑)。化調がないと素材の味がだんだん深くなっていくから、最後までおいしく食べれるんだけど。

由貴子:だけどさ、化調に慣れちゃったらうちのラーメンはただのやさしいラーメンで終わるんだよね。でももう、それはそれでもうしょうがない。それが作りたかったわけだから。

松下:だから“リセット”なのよ。リセットしに来るつもりで食べないと、俺はかなりそういうイメージ。

由貴子:あの、うちはコロナのときに4月と5月を休んだんだ。それで6月に再開しますって言ったら来てくれたお客さんの反応のすごさ! いつも食べてたけど、えっこんなに!? すごい! 超おいしい! とか言って。

松下:俺は毎回そうなわけですよ、来れても3か月おきくらいだし(笑)。毎回やっぱこのリセットが必要なんだよね。あとやっぱり、コロナってそういうみんな自分の好きなもの食べれない期間だったじゃん。それでよけい一口目に食べたラーメンのうまさっていうのも最高だったんじゃない。それぞれのイメージもあるしね。

由貴子:まあ私たちはほんといい時代を生きたんだよ。これからもしもラーメン屋をやるとかいったら、今までと同じ考え方、コロナ前の考えでもダメだし、この時代に合った、この時代に即した考え方をしなければたぶんできないと思う。

松下:今だったらラーメン屋やらないでしょ、由貴子さんは。もし今の状態でなんか自由なことやれるってなったとしても。

由貴子:あー、やらないやらない。

松下:だって「お客さん」っていうこの店の貯金みたいなものがあるわけじゃん。それはこだわりもってやったからついたものだし、諦めずにやったから今貯金があるんだけど、それがなかったとしたら、1ヶ月2ヶ月休んだらもう終わりじゃん。しかもこれから始めるっていうのはさらにそれ(お客さん)を獲得するために、こだわれないじゃん、予算的にも、絶対。この状況でお客さん来ないわけだし。

由貴子:だから、運が良かったんですよね。

【全てはタイミングと、ラッキーと、センスと】



由貴子:あの、30代とか40代? まあ20代もそうか。20、30、40ってさ、とにかく闇雲に走らなければならない年なの。絶対そう思う。そこでどんだけ走ったかで50代が決まる!

松下:なるほどね。

藤巻:深いな(笑)。

由貴子:って、私は思ってる。私たちは駆けてきたから、50代を。あの、なんていうのかな、50代から60代までがだんだんこう見えてくるわけよね。どういう感じにしたらいいかなって。あとはもう走っていくんではなく、ゆっくり人生を味わうっていうかさ。風情とかさ。だって花がいつ咲いてとか、金木犀のいい香りとか全然さ、気づかずに走ってきたからさ。そんな感じでしょ?

松下:俺でも、最近すでにちょっとスローダウンし始めてて、37にして(笑)。でもそういう話をすごく聞くもん、なんか(笑)。

由貴子:あ、ほんと!? でも、それができればそれは絶対幸せなことなの。それに気づけた! バランスがすごく大事だと思う。例えばほんと音楽だけやってる人、「小さい頃から音楽しかやってません! 天才です!」って人の音楽って、すごいなって思うけど、わりと(心に)こなかったりするんだよね。

松下:まあまあ、そうそう。

由貴子:だからいろんなことをしてる人、いろんなことを感じて、悲しい思いをしたりもしてる人の音楽ってぐっとくるじゃん。

松下:それはそうですよ。絶対そう。ラーメンもそうでしょ? 教科書通りにやればいいってもんじゃないし。

由貴子:そうそう。

松下:なんかあとやっぱり、泥水すすった経験あるみたいなストーリーがさ、なんかやっぱり聞いてていいじゃん。この人苦労してこの店やってるんだよっていう方が、やっぱり親がボンボンでこの土地を持っててっていうよりも、もちろんそれはラッキーでそいつがしかも天才で努力もしたらそれは無敵だと思うけど。やっぱりそこは昭和な人間なんですよ、俺も含め(笑)。そういうところに、隠し味とか音の深みとかを見出したくなる。実際そうじゃないかもだけどさ。さっき由貴子さんの言った、40代まで駆け抜ける感じっていうのも、今の若い子たちからしたら駆け抜けないかもしれないからから、最初から(笑)。どうやったら駆け抜けないでいいかっていうのを探るプロがもっと出てくる時代だと思うし。

由貴子:うーん、なるほど。

松下:さっきの話に出てきた「今からでもラーメン屋始めてましたか?」っていうのと同じで、たぶんやらないでしょうっていうのは、やっぱりラッキーってあるんだなって。この連載ってもう7回目で、いろんな人にインタビューしてきたけど、やっぱり皆ね、すげーセンスとラッキーがめちゃくちゃある。それをちゃんとこう、フィジカルとか自分が積んできた計算してきたものとちゃんとブレンドしてるんですよね。感覚だけでこうだってやっている人は意外に少なくて、もちろんそこに頼って右か左に決めなきゃいけない瞬間にこっちだっていうふうに決める瞬発力やセンスは研ぎ澄まされたものを持っているんだろうけど。なんであのタイミングであの場にいれたんだろう的なラッキーさとか。

由貴子:うんうん。

松下:ここの2人の出会いもそうだと思うんです。たまたまそのときジャズにディグしてなかったらたぶん会っていなかったと思うし、文句の言い方がもうちょっと悪かったら、この人(由貴子さん)のことだから「もう2度とやんない」ってなってたかもしれないし笑。

由貴子・藤巻:(笑)。

松下:だから出会いってすげー大事なんだよね、当たり前だけど。最初のタイミングなんだよ。全てはタイミングと、ラッキーと、センスと。それをさっき(由貴子さんが)仰ってたような裏付けるためのベーシックな部分、それがたぶん全体をゆるぎないものにしていて、それが技術だったり、人との付き合い方だりだと思うんだけど。

【制作者側にどんだけ「余裕」があるかで変わる】


由貴子:なんかね、例えばこう、絵なんか描くじゃん? こう、描いて欲しいとか言われて、(描いた絵を)持ってく人が少し幸せになってるんだよ。それってきっとたぶん、いいことなんだろうね。だから今はすごく幸せで。

藤巻:そうだよね。自分の好きなことだけじゃなくなったよね。けっこう、相手のためになんかしようって。やっぱりアーティストってそういう心が大事だよね。喜んでもらえることに幸せを感じる。はじめはそうだったんだよね。だんだんやっていくうちにさ。

由貴子:そう、お金に追われたりしてさ(笑)。

藤巻:だんだん自分自身のツボにはまっていって、なんかプロだとかなんとか、そういうところだけにはまっていってしまうように変わっちゃうけど、本当は誰かに伝えたい、誰かに喜んでもらいたいっていうのが最初だったんだよね。だからいま描いている絵はみんな喜んでくれるよ。

由貴子:そう。なんか前に百貨店で絵の展覧会とか販売をやったときに、買ったお客さんが泣いちゃったんだよね。

松下:へえ。

由貴子:泣く人いるんだ!? と思って。あたしの絵で泣く人がいるんだ! と思って。なんかすごい幸せな気持ちになりました、とか、とっても気持ちが幸せになって、とか言われたりして、そんなに影響を与えられるものがあたしにあったんだなと思って。今までは「あんたこうしなさいよ」とか、失礼なお客さんがいると「出てって」とか言ったり、そういう部分で強かったんだけど、そうじゃなくって、人を幸せにできるっていうか、あたたかい気持ちにさせることができるってすごいね。幸せだなと思って。

藤巻:変わってきたってことだよね。自分の描きたいものじゃなくて、幸せになってくれるものを。自然とそんなかたちになってきたよね。



松下:たぶん、こんな若造が言うのもなんですけど、相手が変わってるんじゃなくて、こっちが変わってきたんだと思う。余裕出てきて、自然ににじみ出てくるんですよ、きっと。俺は全部(の分野に通じて言えるキーワード)が「余裕」って言葉だと思ってて。若い頃はお金もそうだし時間もそうだけど、あるようで全然なかったから。本当に俺、未だに自分のためだけにしか音楽やってないですよ。でもやっぱり伝わるようになってきてるのは、なんだろう、その「余裕」だと思う。1人の人間としてのかたちがやっとちょっとずつできてきているタイミングなんだと思うんですけど、誰かのためにって思うかどうかじゃなくて、こっちの制作者側にどんだけ「余裕」があるかで俺はけっこう変わると思う。ラーメンも絶対そうだと思うし。うちはこうなんですって言ってるうちはやっぱりそれだけだと思うんですよね。俺のスタイルはこうなんです、じゃなくて、俺はこれがやりたいんです、俺はこういう人間です、こういうドラマーです、こういうラーメン屋です、こういう絵描きです、こういうギタリストですってやってるのをずーっと続けていって、自分の中に「余裕」を持ったときに「あ、これいいじゃん」って思う人が増えていくんだと思う。自然に。ジリ貧のかっこよさももちろんあるけどね。

由貴子:なんかこう、なんていうの、ずーっとさ、線が張りっぱなしだとさ、切れるじゃん。切れそうな感じだったの、もう。あるとき指を手術したんだよ、あたし。去年ばね指になって、外科で手術してもらって、1ヶ月くらい休んだんだけど。

松下:あー、なんか言ってたね。

由貴子:そうそう。そのときにね、無理することとか、肩ひじ張ることとか、まあ若いうちってそういう人多いし私もそうだったんだけど、私の場合は特にずっと女なのにラーメン業界やってたから。今はもうわりと女とか男とか全然関係なくグローバルな感じになってるけど、私の頃はそうじゃなかった。だからもうずっと肩ひじ張って来てて、それがもう癖になってたんだけど、去年そんなことがあってふと休んだときに、なんかもうだらっとしててもいいなっていうか。

松下:張るときだけ張ればいいってことでしょ。いやーでもそれはそうでしょう。使わない楽器に弦張りっぱなしにしててもダメになっちゃうだけ。

由貴子:そう、そう、そう! だんだんお客さんにも優しくなる。で、感動を直にこう言ってくれるお客さんが妙に増えてきて、あー人のためになってる、結果人のためになってるんだから、おかげって思わなきゃいけないし、うまくいってることに対して努力はしたけど、やっぱり自分一人ではなかったから、そういう部分で感謝しなくちゃいけないなって、この年になってよ、この年になって!

松下:(笑)。

由貴子:よくさあ、20代とか30代の子が「僕はここまで来るのに1人ではありませんでした」とか言う人いるけど、(あたしは)この年になんないとわかんなくて。

松下:まーまー遅いね(笑)。

由貴子:遅い、遅いんだよ(笑)! でも、人に恵まれてたの。絶対そう。みんないい人たちで、そういう人に恵まれてたのね。

松下:お互い様ですね笑。いい話たくさんありがとうございました! 今日はこのあたりで!

由貴子・藤巻:ありがとうございました!


「あとがき」


同郷、ラーメン、とういだけでもインタビューしたいと思う要素は充分にそろってる。
けど、甲府で知り合ったタイミングや、あの瞬間に感じた暖かい人柄と、これでもかってくらい溢れてるエッジーなアーティスト側面とのギャップに虜になっちゃってたからなー。

そんでもってあのラーメン。

そりゃ話聞きに甲府までいくっしょ!

ということでBUNCAコラム持たせてもらってからはじめての遠征インタビューでした!

飲食と音楽はやっぱ切り離せない。

これからもリセットしに甲府へ通います。

ごちそーさまでしたっ。



対談者:由貴子・藤巻一紀
話し手:松下マサナオ
撮影/編集:BUNCA



対談者PROFILE
由貴子
藤巻一紀

▼ Favorite Movie
『バグダッド・カフェ』(由貴子)
『ニュー・シネマ・パラダイス』(藤巻一紀)

▼ Favorite Art
ジョルジュ・ブラック、ベン・ニコルソン(由貴子)
岡本太郎(藤巻一紀)

▼ Favorite Music
大貫妙子、坂本龍一(由貴子)
jazz、ジム・ホール、ウェス・モンゴメリー(藤巻一紀)

▼ Favorite Fashion
ノーブランド。アクセサリーや、服も自分用に楽しんで作ったりしてます。(由貴子)
VAN(藤巻一紀)

▼ Favorite Book
三田誠広(「やがて笛が鳴り僕らの青春は終わる」)(由貴子)
津本陽(「柳生兵庫助」)(藤巻一紀)

▼ Favorite Photo
ソール・ライター(「ALL about soul leiter/ソール・ライターのすべて」)(由貴子)
白旗史郎(「山岳写真集」)(藤巻一紀)


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ラーメン由
山梨県甲府市住吉5-19-9
毎週水~日曜日 11:00~14:30営業
TEL:055-241-5302











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Author Profile
松下マサナオ
長野県飯田市出身。
17歳でドラムを始め、大学卒業後に渡米し、Ralph Humphrey、Joe Porcaro 等に師事。
現地の優れたミュージシャン達と演奏を重ねながら、2年間武者修行をする。
帰国後はストレートジャズからパンクロックまで様々なジャンルで活動。

2009年に自身のバンド、Yasei Collective を結成。

2012年に FUJI ROCKFESTIVAL 出演、2013年にはグラミー賞にノミネートされた US ジャムバンド、Kneebody との Wリリース・ライヴを実現。

2014年には日本を代表するドラマー、村上"PONTA"秀一氏率いる NEW PONTA BOX と異色のツインドラムセッションを行う。また同年、凛として時雨のドラマーであるピエール中野氏のソロプロジェクト『Chaotic VibesOrchestra』への参加。

2017年には、デビッド・ボウイ最後のドラマー、マーク・ジュリアナとツインドラムでの共演、ベニー・グレブやブレインフィーダーのルイス・コール等の来日公演でゲストアクトを務めるなど、海外との交流も深い。

2018年、NYレコーディングによるヤセイコレクティブ5枚目のフルアルバム"statSment"をリリース。同年9月にはリズム&ドラム・マガジン9月号の表紙を飾る。

2020年、豪華ゲストをフィーチャーしたヤセイ結成10周年のデジタルリリースシングル絶賛配信中。
Yasei Collective,Gentle Forest Jazz Band, HH&MM(日向秀和×松下マサナオ)
   二階堂和美、ハナレグミ、藤原さくら、東京03、バナナマン、cero、mabanua、kid fresino、前野健太、NakamuraEmi、日向秀和(ストレイテナー)、Toku 他多数

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猫が社員として在籍する「癒し課」のある印刷会社、しまや出版。代表取締役を務める小早川さんに「とら主任との別れ、ユキとの出会い」につい...
Photographer

「なぜ、写真なのか。なぜ、鉄工所なのか。」を自分に問いかけてみました。- 長谷川佳江 -

写真歴6年ながらも精力的に活動を続ける長谷川佳江さん。なぜ写真家としてカメラを選択したのか?なぜ鉄工所やそこで働く人々を撮り続けるの...
column
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クラウドファンディング終了と開始のお知らせ!- BUNCA -

12月から開催されたクラウドファンディングのプロジェクトが無事終了いたしました!豊さんのプロジェクトはもちろん目標を大きく上回り、BUNC...
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NEW BUNCA OPEN!!!- BUNCA -

BUNCAのHPがリニューアルオープン!SNS機能として簡単にクリエイターの情報を共有できるようになりました。会員登録がまだお済みでない方は、...
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BUNCAより皆様へリニューアルに関するお知らせ- BUNCA -

BUNCA統括ディレクターの阪口(♂)から大切な皆様へHPの大幅なリニューアルに関するお知らせとなります。しかも今回はその第一弾!ということは...

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