No Shortcuts Vol.2- 松下マサナオ -

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Yasei Collectiveを始め、日本の音楽業界に無くてはならないドラマーのお一人である松下マサナオさんが、BUNCAで対談形式の連載を開始!第2回目のゲストはこれまでに数多くのアーティストのサウンドエンジニアを務める葛西 敏彦さんです。

松下:数多くのアーティストの楽曲のエンジニアリングを担当していて僕もお世話になっている葛西敏彦さんです。よろしくお願いします。

葛西:よろしくお願いします。

【寝る時間以外は全部好きなことに使おうと思って、音楽をやろうと思った】

松下:早速ですけど…エンジニアっていろんなエンジニアがいるじゃないですか。例えば録音メインでやってる人、ライブメインでやってる人、小屋(ライブハウス)に付いてやってる人とか、小屋を渡り歩いている人もいるし。元々葛西さんが最初にやりたかったのってどれなんですか?

葛西:元々は録音芸術が好きで、ビートルズとかレディオヘッドだったりマイブラッディバレンタインとかそういうロックがおもしろくて、10代の最後の頃とかは友達と一緒にトラックを作ったりDJをやってたりしたんだよね。

松下:それってもう東京に来てやってたんですか?

葛西:ううん、全然。出身の青森にいるときに地元で。当時は8時-17まで本屋で働いてて、終わったら友達と音楽やるって生活をずっとしてて。人生1個も迷いが無くて、ずっとこれでいいやって思ってた。超楽しくて、仕事も本好きだし天職だって思ってて。

松下:本屋だったんだ!俺の最初に会ったときのイメージではもうバリバリ活躍してたから。

葛西:本屋ってキュレーター的な視点があるよね。セレクトショップの走りは本屋だったんじゃないかって思うよ。自分の好きな本を並べてコーナー作ればそれってもうセレクトショップみたいなものだし。CDとかもそういうところあるけど。

松下:たしかにね。

葛西:まぁいいや(笑)それでその生活で良かったし、本も好きだったけど…1番じゃないなって思って。1番はやっぱり音楽が好きだったから。本は2番目だなって感じて、全部の時間を1番好きなものに使おう、寝る時間以外は全部好きなことに使おうと思って、音楽をやろうと思った。ちょうど友達にエンジニアって仕事を教えて貰ったんだよね。で、録音芸術が好きだったけど、田舎にいたからライブを見に行く機会もあまりなかったし、ライブ自体が身近じゃなかったの。冬とか特にすることないし。

松下:雪ヤバイもんね。

葛西:(することないから)音楽を聴いてて、何でこうなるんだろうとかおもしろいなとか思って聴いてたのもあって。音楽を自分で作ったり友達とやったりするんだったら、機材がないと(自分の思ったように)ならないじゃん。この機材使ったって雑誌に書いてあったけど、使ってみたらそうはならないし。エンジニアって仕事があることを知って、音を出す人とは別に音を作りこんだり録音したり加工したりする人がいて、そのフィルターを経てからCDにアウトプットするっていう。自分はインプットとアウトプットしか分からなかったけど、その間にフィルターがあるんだなって。

松下:全く一緒。俺の高校の時代と(笑)大学入るまではそうだった。

葛西:それで、割とそこ(録音)って好きなアーティストの存在を起点にして物事を見ると、いろんなアーティストに繋がってて、結構ジャンルが多いんだよ。俺もいろんなジャンルが好きだったから、割と向いてるなって思ったし、とりあえず手に職をって勉強するため東京に出てきて専門学校に通い始めた。

松下:それは何歳くらいのときだったの?

葛西:20歳くらいの頃かな。それで1年制の専門に入学して、半年くらいで就職先も見つかったからそこに丁稚奉公みたいな感じで行って、アルバイトから社員になってみたいな感じでいって。レコーディングスタジオで働いてたんだよね。その時にPA現場とかも見に行ってみたりしたんだけど、録音の方がしっくりきた。その時はなんとなくの勘だけどね。

松下:その時は勘を信じるしかないよね。経験が無いわけだから。

葛西:そうそう。どうやって録音されたのか、自分の音は何でそうならないんだろうって疑問が結構強かったかな。だからスタジオに入った動機っていうのもすごい不純というか真っ直ぐというか。音を作りたかっただけだからそこでやってる仕事とかは正直あまり興味なかったんだよね(笑)だから仕事覚えて1人でスタジオを回せるようになったら、お客さんが帰ったあとそのスタジオで自分が録音してた曲とかを勝手にMIXしてた。それにしか興味がなかったからずっと打ち込んだ曲とかやってみたりして。

松下:本屋で働いてその後に音楽仲間とつるんだりってのが、少し変わった形になっただけで、エンジニアとして日中は所謂THE仕事をして、その後MIX作業を自分でやりたいようにやって、そこはあまり変わってないわけだ。

葛西:そう、全然変わってない。そこはぶれてない。ていうかそれしか興味がなかったから、当時スタジオで録音とかしてたりするんだけど、その時点ではまだ録音に興味ないのよ(笑)ドラムとか打ち込めばいいじゃんって思ってたし、なんでみんな生叩くんだろうなって結構真剣に思ってた(笑)

松下:たしかに興味なかったら1番みんなが思うところだと思う(笑)

葛西:でもやっていくうちに、先輩にすごい人がいたんだよね。録音の魔法みたいなさ。マジックが起きる瞬間ってあるじゃん?録音現場で。なんでこんな音撮れたの?とかさ。そういう瞬間を見たりした時に「録音って深いな」。これはもう少し追及してみようって割とすぐに思い始めたんだよね。

松下:ターニングポイントの先輩っていうのはそこでたまたま知り合ったんですか?クライアントとして来て?

葛西:ううん。会社の先輩のエンジニアだったの。俺のことを面接して雇ってくれた人だったんだけど、入ったら辞めてて(笑)

松下:え~~!(笑)

葛西:「葛西を雇ったから俺辞めたわ」みたいな。でも、自分の仕事で来てくれてたから、よくその人に付いてやってたんだけど。まぁハチャメチャな人だったけどおもしろくて。

松下:今でも(エンジニア)やってる人なんですか?

葛西:もう連絡が取れないんだよね。何やってるんだかって感じだけど、完全に師匠っていう感じの人。

松下:へぇ~!おもしろいんですね。やっぱりみんなそういう人がいるんだなぁ。

【常識は無くて、お前が常識を作れ】

葛西:当時は生意気なアシスタントだなって自分でも思うよ。録音のエンジニアだったらマイクとか何の機材を使うとか大体は指定してくるじゃん?で、それセッティングしといてって(予め)言ってくる。普通は言われた通りにセッティングしておくんだけど、言ってこない人もいるのよ。来てから言おうと思ってるんだろうなってのは普通なら分かるんだけど、言わないなら俺が決める。ヴァイオリン録りますって言われたら、ヴァイオリンのセッティングを勝手に全部マイクも置いて、レベルとかも全部取っておいて、データ来てたらコピーして開いておいて、(クライアントが)来た瞬間に録音ボタン押したら録音できるって状況を作っておいて。

松下:(笑)

葛西:よく「お前やりすぎだ」って叱られたんだけど、たまにそのまま席に座る人もいるんだよ。「あ、もう(自分のセッティングでもちゃんと)録れるじゃん」って。そうなったら、そのセッティングでやってる=自分がエンジニアと変わらないじゃんと思ってて。そしたらその先輩のエンジニアが来た時に、「その人は多分(やりすぎって)言わないんだろうなぁ」って思ってたら案の定ぐるっと見回して、挨拶してから黙って座って。

松下:それ嬉しいね!

葛西:「葛西やってんな」って受け取ったなと思って。で、録り始めたのよ。大体は想像通りの音がしたんだけど、結構アッパーなポップスで、ちょっとストリングス負けてるな~て感じだったんだよね。でもまあちょっとエンジニア側でEQとかを調整すれば大丈夫って思ってたんだけど、そういうの(先輩エンジニアが)やらなくて。やらないな~と思ってたら(録音を)ちょっと止めて~ってなって、部屋の中入ってぐるぐるって一周回ってきて、「葛西く~んちょっとこっちこっち」って呼ばれて録音ブース入ったら、普通ヴァイオリン録るときって部屋の真ん中に椅子置いて録るじゃん。

松下:そうだね。

葛西:そしたらその部屋の端っこの方から向こう側に向かって、「ここに向こう向きで椅子置いて」って言われて、変なこと言ってるなこの人と思ったけどマイクも全部移動して(笑)、終わってコントロールルームに戻ってきたらもう弾いてるんだけど、入った瞬間に音がバーン!て抜けてるのね。「めっちゃ変わった!けどセッティング変わってない!」と思って。先輩はニヤ~って笑ってて(笑)…みたいなことが他にもあって。

松下:へぇ~!

葛西:エレキギター録ってたらまた音が抜けないな~ってことがあって、「ブース(のドア)開けてきて」って(その先輩エンジニアが)言うんだよ。「ブース開ける?ブース開けたらうるさくならないですか?」て訊いたら「ちょっとで良いの。」「ちょっと…?(開ける)」「開けすぎ開けすぎ、これくらい。」「これくらい?」って言ってすごい中途半端に部屋を開けて、不思議に思いながら戻ってきたらまたギターがバーン!て音出てて「わっ、めっちゃイイ音してる!」って思って。プレイも変わってないじゃん?セッティングも変えてないじゃない?でも変わってるじゃん?みたいなことがあったりして”わからないもの”が存在してるけど知覚はできる、みたいな。

松下:そういうのあるよね。

葛西:後から先輩に「何したんですか?(音)変わりましたよね?」って訊いたら「わかる?」「わかりますよ!(笑)」って話して。「ちょっとおいで」って言われて部屋の中を一周回って、その先輩がマーチンのブーツを履いてるんだけど「わかった?」て言ってきて。「…足音ですか?」って言ったら「そうそう、いいところ見てんじゃん(笑)」って。足音も場所によって変わるのね。床の材質だったり、床から壁との距離で反射の音が変わってきたりとか、どこで鳴ったって鳴ってる音は一緒じゃん?て思ったりもするんだけど、自分の声でもここで話すのと壁際で話すのとじゃ音が変わってくるみたいな。そういうところまで全部含めてコントロールしてる人で。「どこに立てるんですか?マイク」って訊いたら「え、(音が)元気なところ」みたいな(笑)

松下:相当変わった人だよね。表現としては。

葛西:でも割とそれがかなり根っこになってる。エレキギターのときも、音が大きくて部屋中で反射し過ぎてたけど、ちょっと(ドアを)開けることによって、空気の容量を増やしてあげたんだよね。エレキギターのアンプが鳴ってる時の空気の容量を増やしてあげて、それによって部屋の響きをコントロールしてるみたいな。

松下:見えてるんですよね、きっと。その時の音とか空間の流れみたいなやつを。

葛西:そうだね。よく聴いてるし、常識はあんまりないって言うから。ギターだからこうやってマイクを立てる、っていうことは全然無いし、割とそのときにやってるものにフラットに向き合うって言うか。基本的な音の原理とかは全部理解してるんだけど、単純にそういうのを並べるだけでどんな状況にでも対応してるっていう感じでしかないから。「常識は無くて、お前が常識を作れ」みたいなタイプのことやってる人。そういうのが結構ベーシックになっててそれで録音にのめり込んでいって。「これは、深い」と思ってやり始めた。

【日本のエンジニアってわりと”職人”なんだよね】

松下:初めての自分が(コントロールルームでメインのエンジニアとして)ここに座るまでっていうのは?

葛西:その時にもう座ってたよ。今みたいに多くはないけど、割となんでも(仕事が)あるところで、それが結構今にとっても良かったんだけど、CMもあれば映画のサウンドトラック、アーティストとかアイドルもやってたし、映像のMAみたいな作業もあって、本当に無い仕事が無いくらいあったよ。

松下:それだけ手広くやってるスタジオって今あまり無いですよね。

葛西:そういう意味では色々見れて良かったなっていう。まあでも自分のやりたい方向はそこまで商業的と言うか職業エンジニアリング的なところじゃなくて。日本のエンジニアってわりと”職人”なんだよね。職人気質で、先輩から後輩にもあまり分かりやすく教えないし、背中…。

松下:「背中見ろ」的な?(笑)

葛西:そう(笑)だし、音楽のヒエラルキー的にもアーティストがいて、プロデューサーがいて、ミュージシャンがいて、一番下で手を動かしてる人がいてみたいなのが結構強くて、自分の好きな作品がどうやって出来てるのかなって調べてみると、海外は”プロデューサー兼エンジニア”が結構多いんだよね。レディオヘッドとかナイジェル・ゴッドリッチとかがよくやってたりして。だからミュージシャンからエンジニアになっていくパターンが彼らは多いわけじゃない。その辺りは結構(日本と)違うなーと思って。丁度マルニスタジオってところで仕事をしてたときに、フィッシュマンズのリユニオンのライブの仕事があったんだよね。当時ずっと山崎まさよしさんのアシスタントに付いてて、そのディレクターさんが(フィッシュマンズとか忌野清志郎さんの現場でも)一緒だったのね。その人の縁で知り合ったzAkさんて人がいて、zAkさんとちょこちょこ仕事させてもらったりとかしてるうちに、スタジオ辞めようかなと思って。次どうしようか悩んでたタイミングでzAkさんのライブ現場(UAさんの野音)見て衝撃を覚えて。雷に打たれたような衝撃みたいなすっごいライブで、「ライブでこんな音鳴るんだ!」それでライブにもすごい興味を持ち始めて。

松下:じゃあライブの方が後なんですね。俺と出会ったときはライブが多かったから。

葛西:全っ然後。

松下:そっか、そういう経緯があるんだ。ちなみに今でもあるライブハウスで、ここよくやったってところどこですか?

葛西:WWWが一番多い。立ち上げ2年目ぐらいからやってる。

松下:管理みたいなこともやってましたよね?

葛西:今も管理はやってる。最初は乗り込みでその日その日のバンドに付いて呼ばれて行ってオペレーションだけして帰ってくるっていうことをやってたんだけど、乗り込みで行ってたら現地の人に気に入ってもらえて、その現地(WWW)が主催するイベントのPAやってよっていう話で声かけてもらえて。やってくうちに「葛西くん、こんなに来るんだったら管理も覚えたら?(笑) 」みたいな話になって、イレギュラーだったんだけどお互い「じゃあやりましょう」って話になって管理もやるようになった。それからWWWの来日ものとかをよくやらせてもらって。そんな感じ。ライブやり始めた変わり際。

松下:既に人気だったよ、エンジニアとして。俺らの周りの人気出てきたアーティストはみんな「葛西さんと録りたい」って人が多かったし。それで俺らも最初に代官山LOOPでライブやってもらったし。「この人結構ライブでもエンジニアっぽくお化粧する(音に手を加える)人なんだ」って当時は思って、俺もまだドラムがどういう音が良いとかまで全然分かってなかったけど、でも本当に感じたもん。28とか29歳の頃に会ってるんじゃないですかね。

葛西:(松下さんがアメリカから)帰ってきてすぐくらいだよね。

松下:そう。帰ってすぐ(バンドを)組んで、(葛西さんと一緒に制作したのは)2枚目のアルバムからなんで。

葛西:「Chat-Low (Yasei Collectiveの2枚目のアルバムに収録)」すごい頑張ったの覚えてる。

松下:葛西さんと最初は西武柳沢のスタジオで録って、次に「FINE PRODUCTS」をここ(studio ATLIO)で録った。で、次はニューヨークに録音(葛西さんと)一緒に行って。あのニューヨークでの時間はある種、一個の転機でした。

葛西:俺もそうよ。

松下: ”録音する”っていう作業に関してのプライオリティが俺の中で結構変わったんですよ。「良い演奏録ろう、良い音で録ろう」ってのはもちろん当たり前にあるんだけど、「プロセスを楽しもう」っていうのがあれから変わって。だからYasei Collectiveは特にそうだったんだけど、録音する場にパッケージを持ってって、あとはそこで録るだけっていうのをあの時まではやってて、あそこでいろいろ時間無くてトライはできなかったんだけど、「こうやったら良いんじゃないか」とか出てきたときに、「余地残した方が全然面白いかも」と思って。

葛西:たしかにそうかもね。

松下:言葉がわからない部分もあるのに、(海外スタッフと)フレンドシップが出来上がったのも俺は見ててすごい面白くって。あれから1つ1つの現場を楽しんでこうと思って。準備を絶対的にして行って、なおかつ余地があるとそれに対して「なんで変化を求めちゃうの?」て言うんじゃなくて、乗っかって一緒に遊べば面白い感じにできるし。録音に関してはあれ以降”プロセス”をもっとスタジオに持ち込んでいいんだなっていうのは思って。

葛西:あれまでほんとガチガチだったもんね。

松下:そうそうそう。決めたことを撮りに行くって感じで。ミスったらあかんと思って。今はもう別に全然考えてない。

葛西:楽(ラフ)になったねぇ。

松下:ほんとそうですよ。俺がよりもみんなが良いって言うテイクにしたら良いと思うって感じのスタンスになってきて。後で聴いたらどうせどっちも良いじゃん。その瞬間「これ俺がやろうと思ってたことをできた」と思ってても、意外に後で聴くと固かったりとかするし。最低限の準備はしていくんだけど。

葛西:あとやっぱり(海外録音は)人の感じが違ったってのが大きいよね、自分らの常識が全く通用しないところだったから。近所にすごい大量に楽器あったじゃない。みんなでシェアしてたりしてる感じとかが日本とは違う常識で。

松下:ガレージ(倉庫)の一番奥の音出してもいいところ。多分家賃1人100ドルずつぐらい毎月払って楽器みんなで持ち寄ってて。夜とか人がいない時間にコソコソ集まって録音しててすごいおもしろいなと思った (笑) 「ちょっと今日Rhodes(エレクトリック・ピアノの一種)借りてくから」みたいな。すごい良かった。シェアリングのフレキシビリティって言うか、「それってカッコ悪いんじゃない?」て日本人が勝手に思ってるようなことが、簡単な言葉にすると”助け合い”みたいなやつが綺麗に街全体でやってて。

葛西:あれは凄いよね。システマティックだった。

松下:予算がある後輩とかめちゃくちゃ売れてきてるバンドとか、どんどん海外行って録音したらいいと思う。お金使って経験出来るんだったら、例えば日本で超一流のエンジニアを使ってめちゃくちゃいいスタジオ借りて、録音してMIX何日もかけてっていうのより絶対おもしろいじゃない。

葛西:それは一理あるよね。日本とはまた違った録音になると思う。

松下:1枚だけ冒険して、音がちょっと悪いからって売れてる人達の売れ行きは変わらないし、そんな時代じゃない。使うお金が一緒なら面白い物を作った方がいいよね。本人達がやりたくないんだったら別だけど、そういう経験させてあげるのも上の世代の人達の仕事だから。ちょっと話それちゃったけど、あのモーメントは大きかったですよね。

葛西:うん、大きかった。超大きかったよ。

【目の前のことに向き合ってきただけの人生だった】

松下:ルーキーに向けて、今だから分かる「成功とか失敗」がいっぱいあると思うんだけど、その中でも自分の中で「俺はこうしちゃったけど、これからのこととか、今の社会や業界も含めて、これはこうした方がいいよ」みたいな葛西さん目線のアドバイスって何かあります?全てにおいてでも。

葛西:失敗を経てのか。なんだろう、失敗は散々してるからね(笑)

松下:失敗をした方がいいのは絶対に間違いなくて。トライ&エラーだから。

葛西:考えたこともなかったな。失敗…を振り返れてないのかもしれない(笑)

松下:(笑)

葛西:これは性格なのかな。相当楽観的で能天気に生きてきたのかもね。なんかさ、この話の中でもライブを最初はやるつもりじゃなかったじゃん?流れでそれが刺さって「ヤバっ!」て思ってやってるだけで。その時に自分が興味を持ったりしたこととか、おもしろいなって思う状況で「やって」って状況がちょこちょこ来るじゃん。その時に一生懸命ゴールに向かってやってたら結果的にスキルだけが備わってきて、全然違うところでまた自分が交わらないものがたくさん置かれていく。気が付いたらが自分の棚に「本当だったら交わらないものも含めて全部自分の棚に入ってる」。だからこうなろうと思ってた気は全然無くて、目の前の1つ1つの現場に向き合ってたら結果的にこうなっただけで。

松下:じゃあやっぱ1個1個を本気で本当にちゃんとやっていくことが大事ってことだね。

葛西:そうだね。マイナスの話ってよりはプラスの話になっちゃうけどね。結局それでしかないから。みんな目指せないじゃん?マサナオはアメリカに行ってあの時間があって帰ってきて、アメリカで目指してた音があって、それを目指していくうちにまた違う仕事が来て、それらを経てここに今いるわけじゃん。これってさ、他の人が同じようにトレースしても(その人と同じに)ならないし。

松下;感じ方も出逢う人も違うもんね。それは誰にしてもそうですよねやっぱ。

葛西:目の前のことに向き合ってきただけの人生だった。今のところ。

松下:なるほどね。

葛西:そういう意味で言ったらおもしろい現場だったらなんでもいいんだよね。それで自分のいられるポジションがあればそれでいいやって思うのは結構あるんだよな。でもやれることがエンジニアしかないからエンジニアをやってる。

松下:その「おもしろがる」ってポイントが大事ですよね。何にしても。天秤にかけなきゃいけない瞬間っていっぱいあって、身体は1つしかないからスケジュールも1つしか入れられないし、それでやれなかったこともあるだろうし、やりたくないのにいろんな兼ね合いでやらなきゃいけなかったとかも出てくると思うけど。1個1個やってくしかないよね。

葛西:普通の話だよね、誰のためになるのかなって感じだけど(笑)

松下:最後に、今エンジニアで録音とかライブもやってますけど、今後何か具体的に「俺こういうことしたい」みたいなことって既に何かあるんですか?

葛西:あるある。んとね、大きいスタジオをやりたくて。

松下:それは自分でってこと?

葛西:分からない。会社でできたらいいなってのは勿論考えてるけど、この状況にいるのは社長がいて、社長とやれてるこの関係に感謝してるから。とはいえ、やっぱアメリカが大きかったのよ。いろんなことを経験してきて、割とそうなんだけどその時々で状況が変わっていくというか。

松下:「やべぇ!」って思ったことを追っかけるってこと?

葛西:追っかける。自分の中ではその時に出来ることを追い求めてるんだけど、そこで出来る限界みたいなのを感じる瞬間もあったりして。次は大きいところで、コントロールルームとスタジオが一緒になってるところが良くて、音楽って録音(音をコントロール)しやすいがためにどんどんセパレートしてやってってるけども、そうじゃない方。全部くっついてて、同じところで全部の音が鳴ってて。

松下:めっちゃ海外のスタイルって感じですね。

葛西:アメリカ行って思ったんだけど、部屋が広いだけで全然違ったじゃん。こっちだと部屋が狭いってだけで出来ないことがあるなって思うと、なんかそういうのを超える方法で大きいスタジオがいい。あとマサナオと見た、みんなでガレージに楽器置いてたじゃん?ああいうのを日本でも出来たらいいなと思って。

松下:ね!ガレージサービスをもっと。

葛西:そうそう。日本だと楽器を置いておく場所もないじゃん?立地が狭くてさ。だったらスタジオとかガレージにみんな楽器を置いておいて、さっき言ってた個で頑張りながら横でも助け合っていけるような感じでみんなで楽器をシェアして。

松下:楽器シェアするっての本当に日本もやった方がいい。アメリカ行ってそれはめちゃくちゃ感じた。

葛西:やった方がいいよね。アメリカはいいところだったって単純に言うわけではないんだけど、日本とはまた違う生きやすさがあるなって思ったかな。向こうの人は、シビアだけど寛容じゃん。

松下:「適当」って言葉なんだと思う、あれが。適度にOPENな感じで。

葛西:なんか日本ってシビアで不寛容な感じがしちゃってさ。ずっと腕組んで見られてるような。別にシビアになるのは仕事だし全然構わないんだけど、一旦何をするかまでは寛容でいてくれよって思ったりする。だからせめて自分でそうやろうかなって。

松下:良いと思うそれ。

葛西:個人でやるとしたら、これからもガンガンやってやろうぜってお互いが先に進んでないと出来ないじゃない。そんな人達とだったら多分出来るのかなって思う。

松下:それこそ、本当の意味で言う「個」で生きていける人達が集まってる強さってのは Yasei Collectiveもそういう名前の付け方で、1人1人がちゃんと独立/自立してる奴らの集まりでバンドをやってるってのをやりたかったから。それが今やっとそうなってきて、周りの人間も実際にそうなの。変な話、一緒のギルドとかユニオンみたいなところにいて、葛西さんもそうだし、ちょっとずつそういう知り合いが増えてって、そういう人達が自分達と同じような考え方を持っていて。

葛西:そうだね。

松下:音楽業界の中で今はそれぞれが結構なポジションにいるわけよ。これでもう5年、このまま辛いことも頑張りながらやってったら、今のTOPの人達と世代を交代して俺達の時代がミュージシャンも含め、クリエイティブ全部が変わる瞬間が多分あるんですよね。その時にライブシーンとか録音(レコーディング)のシーンがどういう風になってるかってのは別にして、その時に録音技師っていうのがどういう立ち位置になってるのか。またライブに戻る人は戻るだろうし、そういう意味でも葛西さんってフレキシブルに「これ良い!」と思った物に付いていく、ある種のアメリカと同じ良い意味での適当さ、それに物怖じしない器のデカさがあるから、「えいっ!」て飛び込んじゃう危うさが音の魅力にもなってるんだと思う。それが多分その次なる一手って質問した時も、特に確実な物を提示してくるわけじゃないんだけど、「あぁなんかこの人やるんだろうな」っていう変な具体性が言葉に帯びてる。今までやってきたのを見て来てるからってのもあるんだけど。だから今回は初めて聞けた話もあってすごい面白かったです。本当にありがとうございました!

葛西:こちらこそ、今日はありがとうございました。

「あとがき」

葛西さんと今回初めて一対一でゆっくり話したのか、、、と後からふと考えて、俺たち10年近い仲なのに、とてもあわただしく音楽やってきたのだな←(いい意味で)と思った(笑)

ものづくりを共にする仲間は一人でも多い方がいい。絶対に。

けど、濃い付き合いが自然に続けられてるチーム感みたいなのは何物にも変えがたい。

絶妙な距離感とか、好みのかぶり具合とか、そういうのを楽しめる音楽家になるにはまだまだ自分も時間がかかりそうだ。

今こういう世の中の状況もそうだけど、次なる一手をいつも楽しみながら考えてないと自分のこと好きでいられなくなっちゃうよね。
 
アーティストてなんだろう。仕事するってどういうことなんだろう。

“生きがい”って古い言葉になっちゃったのかな。

みんなで考える時期なんてとっくに過ぎてるのだろうけど、もっかいちゃんと考えるべきだよね。

撮影協力:studio ATLIO
対談者:葛西 敏彦
話し手:松下マサナオ
撮影/編集:BUNCA

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対談者PROFILE

studio ATLIO:葛西 敏彦

FavoriteMovie:
ホドロフスキーの「DUNE」と「リアリティのダンス」好きです。
長くものづくりを続けるといろんなことがあるんだなと思います。

FavoriteMovieArt:
ゴーギャンの「肘掛け椅子のひまわり」
オノヨーコの「空を開けるためのガラスの鍵」
ルーシー・リーの青やピンクや金の器

FavoriteMusic:
テクノとニューウェーブが主成分です。
精神的にパンクスの気持ちを持った音楽に惹かれます。

FavoriteFashion:
最近、広島のSpingle Moveさんの靴に出会って、靴に対しての考え方が変わりました。
毎日のように履いてます。履いていてとても気持ち良いです。

FavoriteBook:
最近は南方熊楠が面白くて読んでます。
漫画だと市川春子さんが好きです。

FavoritePhoto:
Ryan McGinleyのような生々しい写真だったり、
Wolfgang Tillmansのような色彩が好きです。

====================================
studio ATLIO
HP: http://www.oasis-sd.com/studio-atlio.html

〒158-0097
東京都世田谷区用賀3-11-15

TEL:03-5797-9258
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Author Profile
松下マサナオ
長野県飯田市出身。
17歳でドラムを始め、大学卒業後に渡米し、Ralph Humphrey、Joe Porcaro 等に師事。
現地の優れたミュージシャン達と演奏を重ねながら、2年間武者修行をする。
帰国後はストレートジャズからパンクロックまで様々なジャンルで活動。

2009年に自身のバンド、Yasei Collective を結成。

2012年に FUJI ROCKFESTIVAL 出演、2013年にはグラミー賞にノミネートされた US ジャムバンド、Kneebody との Wリリース・ライヴを実現。

2014年には日本を代表するドラマー、村上"PONTA"秀一氏率いる NEW PONTA BOX と異色のツインドラムセッションを行う。また同年、凛として時雨のドラマーであるピエール中野氏のソロプロジェクト『Chaotic VibesOrchestra』への参加。

2017年には、デビッド・ボウイ最後のドラマー、マーク・ジュリアナとツインドラムでの共演、ベニー・グレブやブレインフィーダーのルイス・コール等の来日公演でゲストアクトを務めるなど、海外との交流も深い。

2018年、NYレコーディングによるヤセイコレクティブ5枚目のフルアルバム"statSment"をリリース。同年9月にはリズム&ドラム・マガジン9月号の表紙を飾る。

2020年、豪華ゲストをフィーチャーしたヤセイ結成10周年のデジタルリリースシングル絶賛配信中。
Yasei Collective,Gentle Forest Jazz Band, HH&MM(日向秀和×松下マサナオ)
  二階堂和美、ハナレグミ、藤原さくら、東京03、バナナマン、cero、mabanua、kid fresino、前野健太、NakamuraEmi、日向秀和(ストレイテナー)、Toku 他多数
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