「19歳の初期衝動が“ビジネス”に変わるまで」 vol.3- SHUN NAKAGAWA -

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ファッションディレクター、ショップオーナー、更には服飾専門学校の講師も務める中川 瞬氏の連載3回目!突如舞い込んだ特大チャンスに「僕」とノンちゃんの取った行動とは…!?

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前回のあらすじ〜

2002年、当時19歳だった僕は、彼女のノンちゃんと一緒にブランド“banal chic bizarre”を立ち上げる。順調に売り上げを伸ばしていく中で、当時一番置きたかったセレクトショップへの商談の話が舞い込むことになる。




2003年1月

宿の交差点にはまだGapがあり、その付近では頻繁に雑誌のスナップ撮影が行われていた。(今はそこに東急プラザがある)

当時は僕も度々スナップを撮ってもらっていたのだが、担当のライターさんやエディターさんに、ブランドをやり始めたばかりでこういうお店に置きたいとか色々相談していた。

中にはとても親身になってくれる方もいて、お店を紹介してくれるケースもあり、ただ撮られるだけではなくしっかり情報交換の場所になっていた。

その当時、僕たちが一番取り扱って欲しかったのが、キャットストリート沿いのビルの2Fに店を構えるCANNABIS。

時代的に裏原ストリートから、恵比寿のMACKDADDY、SWAGGER、DEVIROCKと次世代のストリートブランドが台頭していき、中目黒ではblanceweardesignが爆発的にヒットしていたそのストリートウェアの系譜とは異なるカテゴリーで、同じく爆発的にヒットしていたのがセレクトショップのCANNNABISだった。

今も現存する店舗だが、当時は風変わりな形のアイテムが多く、大御所のモードやストリートウェアでは物足りなくなったファッションピープルの渇望感を潤すような前衛的なショップで、ユニセックス、デコラティブという言葉を生み出す大きな要因となり、それはまさに東京のストリートシーンに新しい風が吹いた瞬間だった。

説明が長くなったが、僕は知り合ったライターさんにCANNABISに置きたいという話をしており、ライターさんも、機会があったらちゃんと紹介するね。と言ってくれており、そこから商談にこぎつけられたらと思っていた。

そんな矢先、ウチのタンクトップの生産を請け負ってくれていた先輩“てっちゃん”からまさかの連絡が入る。


てっちゃん
「いまどこにいる?」


「祖師谷大蔵に来てみたのでついでにスーパー寄ってるとこです」

てっちゃん
「CANNABISが見てくれるって」


「マジ!?いつ??」

てっちゃん
「今。今しか時間ないって」


「え!今スーパーでネギ買ってるから急ぐ!」

てっちゃん
「急いだ方が良いよ。頑張って」


この時の出来事は今でも鮮明に覚えている。

当時、小田急線の梅ヶ丘駅に住んでいた僕とノンちゃんは、ただ何となくの思いつきで4駅離れた祖師ヶ谷大蔵駅にデートに行っていた。
そこで入ったスーパーで食料品を買おうとプラプラしていたタイミングだったので、そこからダッシュで帰宅し、ネギを家の中にぶん投げ、スタイリストバッグにサンプルを詰めて大急ぎで原宿へと向かった。

ライターさんへの根回しより先に、てっちゃんからこの話が出てくるとは思っていなかったが、その時はそんなことを考える余裕もなかった。

人生かけてダッシュした甲斐もあり、当時CANNABISのディレクターだったMさんにお会いする事ができ、商品を見てもらった。(今でも大活躍の方なのでイニシャルで失礼します)
Mさんは判断の早い方で、商談は一瞬で終わった。


Mさん
「これは置けないからもうちょっと違うの作って持って来てよ」


気持ちの良いくらいの完敗をくらった僕たちだが、若くてまだまだアホな僕は、じゃあまた持って行ったら見てくれるって事だよね?
と断り文句を都合よく解釈し、新作の制作にすぐに取り掛かった。

新作を企画したのは、勿論ノンちゃん。

古着のネルシャツの袖を大胆にカットしてタンクトップの様にし、サイドにサイズ調整可能なゴールドのドットボタン、フロントにはゴールドのチェーンとゴールドの安全ピンをつけた、CANNABISを意識したデコラティブなアイテムを一瞬で作っていた。

僕らは懲りずにアポイントを取り付け、運良く再度見てもらえる機会を戴けた。

Mさんは相変わらず判断が早かった。


Mさん
「これ良いね。じゃあ10着作って持ってきてよ」


CANNABISの取り扱いが決まった瞬間である。

帰り道、キャットストリートを歩く僕の足はとても軽かった。

今まで感じたことのない幸福感に満ち溢れていた僕は、調子にのって大きな声で「よっしゃー!!」と叫んだが、その瞬間、「うるさい、恥ずかしいからやめて」とノンちゃんに言われ、一気に冷めたのを今でも思い出す。

取引が決まり、てっちゃんにも報告することにした。



「CANNNABIS決まりました!ありがとうございました」

てっちゃん
「良かったね。たーこのおかげだね。」


「たーこさんは誰?」

てっちゃん
「ウチに居候してたニコラス覚えてるよね?その彼女。CANNABISで働いてるからbanalの事見てやってもらえないかってお願いしといたんだよ」


そんな偶然あるのか…

自分の強運さにも驚いたが、何よりも忘れもしない、このニコラスという名前。





〜時を遡ること約8ヶ月〜


当時、学校に行かなくなった僕は夜遊びの先輩、てっちゃんの家に居候していた。

夜クラブに行き、朝帰ったらそのままてっちゃん宅で寝て、起きたらレコードを聴きながらてっちゃんの作ったご飯を食べる。

そして、夕方過ぎになると1学年上の専門学校の先輩たちが遊びにきて、その人たちとご飯食べたり、クラブに行ったりという毎日を送っていたのだが、その快適東京ライフが無くなったのがこのニコラス居候事件である。

年齢も職業も関係なく、誰でも分け隔てなく遊ぶてっちゃんは、時に後輩の課題を手伝い、時に沢山の人に料理を振る舞い、時にクラブで1000人規模のイベントをオーガナイズしていた。

様々な人々がてっちゃんの家に集まり、夜通し遊んでいたのだが、誰でも受け入れてしまうてっちゃんは、知り合いからのお願いで一時的にニコラスという外国人を居候させる事にした。
当時の僕にしたら同居人のようなものだったのだが、これが本当に合わなかった。
家に帰ってくるなり、疲れたから静かにしてくれと舌打ちしたり、英語でぶつくさと悪口を言ってくるので、僕以外の人間も一時期てっちゃん宅に遊びに行きづらくなっていた。

この事件を機に、僕はてっちゃん宅への居候生活をやめる事になるのである。

そのニコラスからのコネクションでまさか夢が叶うなんて。

人生どこで何があるかわからない‥。



回想もこのくらいにして、2003年1月、CANNABISに初の納品をする。

ネルシャツのリメイク10着。

対応してくれるスタッフたちも雑誌で見ていた僕にしてみれば有名人の方々。

あとは売れるかどうかが今後の鍵である。

納品後、家に帰ろうとすると、携帯が鳴る。

CANNABISからだ。

何か問題でもあったかな?と思い電話に出ると、


「もう全部売れちゃった!早く追加持ってきて!」


えー!

嘘でしょ、もう売れたの?

勢いがある店の実力を肌で感じつつ、大急ぎで追加生産をすることになった。

時間が無いので、原価よりもスピードと判断し、そのまま原宿の古着屋を回り、コンディションの良いネルシャツを複数購入し、それをノンちゃんが急ピッチで縫製。

僕はそのあと、代々木公園でコンコンとドットボタンを打ってダッシュで納品した。

とても人気ショップで扱うブランドのやる事とは思えないかもしれないが、お行儀よくやっていてもお金も入ってこない。

今が大きく飛躍するターニングポイントなのだと、直感的に感じ取っていた。

それからも快進撃は止まらず、のんちゃんが初めてパターンを引いた着物スリーブのカットソーも即完売。

パターン間違えて、パツパツの袖になったナイロンアウターも、逆にそれが良いと評価をもらってバカ売れ。

逆に綺麗に作ろうとして、作ったパンツはあまり数は売れなかったりと、お客さんがbanal chic bizarreに求めているものが他所にありそうなものではなく、クオリティーを無視した初期衝動を表したものだと徐々に理解していった。

この時、消化率100%。

作れば売れる状態である。

当時のCANNABISはそれほど人気があった。


CANNABISで人気を高め、最初の取引先であるGIPSYでもタンクトップが相変わらず売れている状況で、満足していた僕たちだが、CANNABISディレクターMさんの一言で更に上を目指す事になる。

それは、合同展示会に出てみないかというお誘いだった。

展示会という言葉は雑誌で聞いたことはあったが、何をするのか全くわかってないレベルだったので、とりあえず二つ返事で承諾し、スタッフの方々に色々教わりながら展示会を理解していった。

簡単に説明すると、展示会とは、シーズンサンプルを並べ、それを全国のバイヤーが見に来て、オーダーしていくものなんだそうだ。

シーズン毎にサンプルを作るなんて今までやってこなかったので、一部の新作サンプルと今まで販売して実績のあるアイテムを並べることにした。

画像は当時展示会に並べた洋服の一部。









写真で着せたのは女性だが、実際にはこれを男性が買っていくのだから、まさに奇抜そのものである。

そもそもセレクトショップであるCANNABISが合同展を主催し、ライバルである他のセレクトショップにブランドを紹介していた事は今思うと凄い事やってたんだなと思ってしまうのだが、そのお陰で僕たちはCANNABISで扱っているブランドを我先にと取引したい地方のセレクトショップに見てもらえる機会を得る事が出来たのだった。

画像は記念に取ってあった展示会のインビテーション。





展示会にはbanal chic bizarre以外にいくつかのブランドが出展していた。

その時お世話になり、今でも親交があるのが“JUVENILE HALL ROLLCALL”のイリエさんだ。

年齢が倍違う、イリエさんに展示会のノウハウを教えてもらえたのも当時はとても大きな勉強になった。
展示会では名古屋や大阪などの有名セレクトショップが展示会を訪れ、京都のDEVICEという店はウチの服を見に来る前から、京都では是非ウチで。と先に取引確定のご連絡を頂いていたり、他の地方では近隣2店舗が名乗りをあげてくれ、オーダーを見てから判断するという何だか申し訳ない交渉もあったりした。

ちなみにこの一つの都市に2つ以上の取引先を持つことを“バッティング”と呼び、1都市に1店舗しか取り扱いが無いのが暗黙のルールとして存在していた。
先に取り扱った店舗の意向が強く反映されるので、寛容なショップはバッティングOKなんてところも存在はしている。

展示会を終えて、結果10店舗との新規取り扱いが決まった。

この時点でGIPSY、CANNABISを含めて12店舗の取り扱い店舗を獲得したのだが、ビジネスの闇はすぐそこまで迫ってきていた。





みなさんが気にしてくれている通帳残高65円まで、今回の投稿では辿り着かなかったですね。

でも順調なのは本当にこのシーズンまで、次のシーズンで顔面蒼白になります。

次回がまたあれば書きたいと思います。


では。



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Author Profile
SHUN NAKAGAWA
中川 瞬
1983生
ファッションディレクター / ショップオーナー / 服飾専門学校 講師

2002年、19歳でブランドbanalchicbizarreをスタート。
22歳で直営店を原宿にオープンさせ、翌年には東京コレクション期間中にショー形式で発表を始める。
現在17年目。

2008年から3年間インディペンデントファッションマガジン√を発行。
その後、2年間STREET編集室発行のストリートスナップ雑誌TUNEの編集長に就任し本誌のリニューアルを担当した。

現在、banalchicbizarreの他、レディースブランドNONTOKYOのディレクション、セレクトショップMENEWとブランド直営店Addのディレクションを手掛けており、banalchicbizarreはPORTERやSEIKO、NONTOKYOはYONEXなどとのコラボレーションも積極的に行なっている。
個人の仕事としては、服飾専門学校でファッションビジネスの講師を担当。
他にも外部ブランドのディレクションも担当している。

NONTOKYOは来シーズンから東京コレクションにてショーを開催予定。
また、新ブランドNKGWを来シーズンからスタートさせることが予定されている。
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