あなたの手に触れる前に – 画家と暮らせば vol.2- 山田ルーナ -

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第一回BUNCAColumnライター募集に応募いただいたライターの山田ルーナさんの「画家と暮らせば」シリーズ2話目。今回の記事では山田さんが画家である夫に惹かれた理由と、表面より先に魂に触れるという、彼女にとっての夫婦関係についてを、詩的に述べていただきました。是非ご覧ください。

“あなたの手に触れる前に 魂に触れた”
谷川俊太郎「会う」より



ここしばらく、夫の密着取材が入っている。2020年の春にスタジオセットの絵を描かせてもらった、東海テレビ『ニュースOne』。本来ならば昨年のうちに、スタジオセットの絵を担当した作家ということで取材が入る予定だったのだが、コロナの影響で叶わず、1年が経ってようやく実現したわけだ。5月から名古屋で夫のグループ展が始まるので、その広報も兼ねている。

アトリエ/自宅取材の日。「奥様にもお話を伺いたい」とあれよあれよとカメラの前に立たされて、質問されるうちに、私はまた余計なことを言ってしまった。
たしか、どこで出会ったのか、みたいなことを聞かれていたんだと思う。文化祭で出会って、展示の案内をもらって、その展示に行って、絵に惚れて、付き合いが始まりましたと、きれいなだけの話に留めればいいのに、気がついたら私は口を滑らせていた。

「夫のことは別にタイプなわけでもなかったので、絵が好きで結婚を決めたようなものです。いまも、どこが一番好きかと聞かれたら、やっぱり作品ですね」

そして、放送には使われないことを祈るばかりだが、しまいにはこうだ。

「だから、絵が良くなくなったのなら、その時はもう、一緒にいる意味はないのかもしれないですね」

またバカみたいなことを言ってしまったと、私は今日も反省している。なんて傲慢なんだ。大反省。


だけど、やはりこれは、本心からくる言葉なのだと思う。

じっさい、夫のことはタイプではない。ひょろっと背が高くてロン毛の彼を好きな人は、もしかしたらいるかもしれないけれど、ほんとうは私はもっとこう…いや、この情報はどうでもいいか。とにかく、彼のことを、見た目から好きになったわけではないのだ。

じゃあ何がきっかけだったかというと、それはやっぱり絵だった。

ひと目見ただけで、私は彼の絵の虜になった。いま振り返れば、あの頃の絵が特別に良いわけでもないのだけど(もちろん今の方が良いので)、不思議と惹かれて仕方がなかったのだ。その理由を言葉にするのは、すこし難しい。だけど、それが絶対に代わりの効かないものだということだけは、心のどこかでよくわかっていた。だからこの世の中に、もしもどんなに見た目が好みの人がいたって、それはきっと私の一番にはならない。


先の取材の話に戻るが、インタビューの中で、夫がこんなことを言っていたのが印象的だった。
表現とは、魂の現れなのだと。どこまでも、その人間(自分)しか出てこないものであり、だから日々をより善く生きるしかないのだと。

「魂の現れ」という言葉に、私は妙に納得した。

私にとって夫の絵は、ただうつくしいだけのものではなく、きっともっと根源的な、魂が共鳴するようなものなのだ。名前にならない感動があり、だから、惹かれる。極端な話、彼が男でも女でも構わない。そういう絶対的な信頼と、愛情を、私は、作品をつくる夫に対して感じているのかもしれない。

さて、冒頭の一節は、夫の好きな詩から引用している。谷川俊太郎詩集『女に』から、「会う」という詩。自分と夫との出会いを振り返り、私はこの詩のことばを思い出していた。

あなたの手に触れる前に。
その大きな手に触れるより前に、絵をとおして、私はすでに、彼の魂に触れていたのだ。
それはおそらく、見た目よりも もっと大切な、人が人を知ることの純粋なすばらしさ。人が人を愛するときの尊さ。人と人が、ほんとうに触れ合うきっかけになり得ること。

そして、そういう出会いは、思わぬを光を落とすことがある。

じつは私は今年から、詩を書いている。私自身、創作を始めたのだ。これはたぶん、夫の絵によって、書かされているところが大きい。作品をとおして、魂がふるえる。何かをつくりたくて仕方がなくなる。

画家と暮らせば。
いっしょに暮らし始めてまだ5年も経っていないが、彼の眼を、心を、魂をとおして生まれる作品により、向こう5年で自分にどのような変化が生まれるのか、楽しみでならない。


さあ、今回のエッセイは、このあたりで終わりにしよう。魂の共鳴だなんて、たいそうな言葉を使ってしまったな。しかしいくら大げさでも、そんなふうに呼べるものこそ、運命と呼ぶこともできるのかもしれない。…そのくせ恋かと問われると、私はいまだ答えに迷ってしまうのだけれど、これだけは胸を張って言える。

私が夫の一番のファン。
そして、ライバルでもある。

絵が良くなくなったらもう一緒にいる意味はない、というのは、夫のいちファンとしての想いが半分、もう半分には、芸術家として先をいく彼に憧れつづけたいという気持ちがある。こんなこと私が言うまでもないが、夫には死ぬまで、自分の表現に正直に向き合いつづけてほしい。富や名声だなんて目指さなくていいから、昨日より今日、さっきよりいま、良い絵を描いてくれたらと願う。

そして私もまた、良いものをつくるべく、善く生きることを、今日もあくまで目指すのだ。


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Author Profile
山田ルーナ
フリーランスのライター/エッセイスト。4歳からクラシックピアノを始め、芸術大学の音楽科を卒業。ピアニスト、ピアノ講師としても活動している。夫は画家の山田雅哉。日本画技法を用いた平面作品を、国内の個展やグループ展を中心に発表中。近年の主な作品として、東海テレビ番組「ニュースOne」のスタジオセットなど。
山田ルーナ note  https://note.com/1137y
山田雅哉 website  https://yamadamasaya.jp/

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